[第15節]in札幌ドーム:東京ヴェルディ戦

文・写真/大熊洋一

試合前、ゴール裏に広がったビッグフラッグ

勝たなければならない試合だった。
勝ち点差がどうこうとか、あるいは、相手の順位がどうだったとか、そういうことだけではない。89分までは、すべての面でコンサドーレが相手を上回っていたのだ。ヴェルディは、ただ立ったままでボールをまわすだけだった。ヴェルディには、オフ・ザ・ボールの動きは、まったくといっていいほどなかった。こんなサッカーしかできないチームを勝たせてはいけない、こんなチームに負けるのはあまりにも情けない、こんなチームになど負けるはずがない-89分までは、そう思いながら観戦していたのだが…

☆メンバー
コンサドーレ札幌:GK21藤ヶ谷、DF32佐藤尽、14古川、6大森、MF8ビジュ、15森下、31西田、10山瀬、5ジャディウソン、FW28バーヤック、17小倉(SUB:GK1佐藤洋、DF22吉川、MF7酒井、20和波、FW18曽田)
東京ヴェルディ1969:GK21高木義、DF17相馬、22ロペス、23米山、31田中、MF2山田、7エジムンド、20高木成、28小林大、FW9マルキーニョス、25平本(SUB:GK12柴崎、DF29柳沢、MF10永井、32小林慶、FW16桜井)

最初に決定的な場面を作ったのはヴェルディだった。13分、コンサドーレが大森のカットからルーズボールをすばやくバーヤックへつないだが、相手選手3人に囲まれたバーヤックがこのボールを奪われ、ヴェルディがカウンターで一気に前線へ。右サイドでマルキーニョスがキープした後、内側に入ってきたエジムンドへ。エジムンドはジャディウソンと森下を引き連れながらボールキープ、そのまま縦へのドリブルでジャディウソンをかわし、さらに森下を避けるようにして折り返した低いボールはゴールラインをなめるようにして藤ヶ谷の足元を抜け、ファーサイドのポストに当たって外へ弾かれた。

これでコンサドーレは目が覚めたらしい。勝たなければならないというプレッシャーからか、なんとなく動きが硬く、ボールはとれているのに、攻撃にリズム感がなかったのが、ここから怒涛の攻撃を開始する。まずは19分、左サイドのジャディウソンからオーバーラップした大森へ縦のボールが入り、大森が低い折り返し。中央でバーヤックが相手ディフェンダーをつぶし、その外へ入ってきた小倉が右足でゴールを狙うがボールはクロスバーのはるか上。そんなに焦らずに左足に持ち替えても間に合ったようにも思えたのだが…。1分後、今度は左のジャディウソンからのアーリークロスを小倉が相馬と競りながらヘッドへ前へ落とし、バーヤックが合わせるも米山のカバーに阻まれる。さらに23分には中央の山瀬から左のジャディウソン、ジャディウソンのミドルシュートはサイドネット。ヴェルディは、ゴール前に人はいるものの、ボールキャリアへ詰めていくでもなく、フリーになっている選手をマークするでもなく、みなボールウォッチャー状態。

28分にもコンサドーレのチャンス。左サイドをジャディウソンがドリブルで上がり、エリア内に入ってキープしつつ相手選手3人を引きつけると、後方の大森へ。完全にフリーとなった大森が余裕を持ってファーサイドへクロスを入れると、ゴール前へ入ってきた山瀬が右足でワントラップの後、左足でシュート。シュートは上へはずれたが、この場面では、山瀬の外に西田、内にはバーヤックも詰めており、攻撃の形としては悪くない。コンサドーレが先制するのは時間の問題かと思われた。

31分、センターサークル付近で相手の縦パスをカットしようと足を伸ばした山瀬が倒れた。バックスタンドからは正面を向いた形の山瀬の右足がへんな曲がり方をしたように見えた。うずくまった山瀬がピッチの芝を何度となく叩く。その光景に、かつての小倉の姿がダブった。上川徹主審がゲームを止め、山瀬が担架で運ばれる。倒れてから約3分後、山瀬は自分の足で立つことがないまま、再び担架に乗せられてメインスタンドの下へ消えた。山瀬に代わって和波が入り、山瀬のポジションにはジャディウソンがまわった。

あまりにも早すぎる山瀬の途中退場。それでも、コンサドーレの攻勢は続いた。37分、右サイドで西田が相手の4バックの裏へロビングを放り込み、これをバーヤックが追いかける。右サイドでボールをキープするバーヤックに相手選手2人が迫り、たまらずファウル。右からジャディウソンのフリーキック、低いボールがニアへ入ったが惜しくも高木成にクリアされる。

そして41分、待望の先制点ゲット。右からバーヤックのコーナーキックをヴェルディがいったんクリア、それを拾ったバーヤックが右からふわっと浮かせたいいクロスを入れると、ビジュが相手の背後からうまく前へまわりこみどんぴしゃのヘディングを決めた。これしかないコースを飛んできたバーヤックのクロスは、まるでピッチの中に一筋の道を切り開いたかのように見えた。ビジュのヘディングへと至る流れは、スローモーションを見ているかのようであった。ゴールを決めたビジュはそのままメインスタンド側へ走り、イバンチェビッチ監督に抱きついた。

後半、ヴェルディはマルキーニョスに代えて桜井を入れ、前半は2列目にいたエジムンドをトップに上げた。前半のヴェルディはただ横パスをまわすばかりで攻撃に怖さが感じられなかったのだが、エジムンドが前でキープするようになったことで、前半はほとんど試合から消えていた高木成太が前のほうへ顔を出すようになり、ヴェルディの攻撃に厚みが出てきた。しかし、ゴール前では古川やビジュが相手にしっかりと体を寄せていき、あるいはシュートコースに体を投げ出してブロックし、決定的な場面は作らせない。一方で、コンサドーレはマイボールを人をかけずに前へ運ぶ、すなわち、自陣でボールを奪ってからはロングボールでバーヤックを走らせることが多くなってきた。そうこうするうち、後半15分あたりからはヴェルディはまた横パスをまわすばかりになり、かなり退屈な試合になってきた。

コンサドーレは、ヴェルディの2トップ(エジムンド、平本)に裏へ抜けようという動きがないことにも助けられて、ラインを高く保ち続けることができていた。相手がボールを持てばすかさずタックルに入り、ボールを前へ運ばせなかった。けっして組織的、頭脳的といえるような守備ではなかったが、ヴェルディにオフ・ザ・ボールの動きがないためにルーズボールがピンチにつながることもなく、失点しそうな気配もなかった。29分に小倉を下げて曽田、34分には西田を下げて酒井と、まるでお約束のような選手交代。結果論かもしれないが、酒井はともかく、ここで曽田を入れる必要があったのかどうか?今年に入ってから急成長した曽田だが、この試合では、昨年と同じくただ前線でうろうろ、もたもたするばかりの曽田に戻ってしまっていた。前線からの追い込みがてきないのなら、小倉を残しておいたほうがよかったのではないか?

36分にコンサドーレの目の覚めるようなカウンターアタック。右サイド自陣の深いところでバーヤックがインターセプト、バーヤックはビジュに預けると右のタッチライン際を駆け上がり、ふたたびビジュからボールを受けると味方の上がりを待って中央へ。これを受けたジャディウソンがミドルシュート。シュートは枠を逸れたが、1点リードしている状況であることを考えれば、まぁよしとするか。

さあ、あと残り10分。ヴェルディはいぜんとしてボールのないところでの動きがないうえに、パスのスピードまで落ちてきて、コンサドーレは簡単にボールをカットできた。もっとも、コンサドーレにしても中盤にはほとんど人がおらず(あらためて山瀬の負傷退場は痛かった)、お互いにただ長いボールを蹴り合うだけになってきた。

そんな膠着状態を最後の最後で打ち破ったのがエジムンドだった。さすが、というべきか。後半、トップに入ってからはボールをさばくことに専念していたエジムンドが、ボールを持ったままゴール前へ入ってきた。ゴール前中央、エリアのすぐ外側でボールを右にはたきつつ、背中を左に向けたエジムンドを、ビジュが倒してしまう。エジムンドが仕掛けた罠にまんまと引っかかってしまった。ときに42分40秒。コンサドーレは全員がエリア内に入り、9人でカベを作った。ゴール前中央でのフリーキック、キッカーはエジムンド。エジムンドが蹴ったボールは、しかし、ヒットせずにゴールマウスから遠く離れたところへ飛んでいった。が、一息つく間もなく、上川主審がバーヤックに注意を与え、フリーキックがやり直しになる。どうやら、バーヤックが早く前へ出すぎたらしい。やり直しのフリーキックは、今度はカベに当たってゴールラインを割った。ヴェルディ、右からのコーナーキックである。

このとき、メインスタンドの下にロスタイムが表示された。掲げられた数字は「5」。一瞬、札幌ドームの空気がざわついた。

ヴェルディのコーナーキックがクリアされ、左に流れた。これを拾った平本がすぐにアーリークロスを入れる。それまで、どんなに相手ボールの時間が続いてもきれいにスペースを埋めていたコンサドーレの選手たちが、このとき初めて、バラバラになってしまった。誰をマークするのか、どのスペースを埋めるのか、みながどうしていいのか分からないかのように立ち尽くす中、平本の上げたボールはファーサイドのロペスの頭に当たり、藤ヶ谷の手の上を越えてゴールマウスに吸い込まれた。

もはや札幌ドームではおなじみの?延長へ

もはやここまでだった。5分間のロスタイムや延長開始直後にチャンスがなかったわけではない。が、とにかく、ディフェンスがバラバラになってしまっていた。あのエジムンドのフリーキックの前まではきれいに揃っていた陣形が、明らかに、変調をきたしていた。観戦している僕自身は、ヴェルディの選手がボールを持つたびに「ああ、またこのままやられちゃうんじゃないか…」と思っていた。試合が終わってから、一緒に観戦していた人(=わざわざ東京からやってきて札幌ドームは初体験)に「同点になってからはドーム内の雰囲気がおかしかった」と言われたが、たぶんそうだったのだろう。選手だけではなく、本来なら冷静になって選手の力にならねばならないはずのスタンドまでもが、繰り返される札幌ドームの悲劇にナイーブになりすぎている。

だから、などと言ってはいけないのかもしれないが、最後の、エジムンドから右のスペースへ長いパスが出たときには、ああ、もうダメだと、その時点で覚悟してしまった。エジムンドからのパスが出たまさにその瞬間、その場が凍りついたかのようにコンサドーレの選手たちの足が止まった(これは、2節前の市原線でチェヨンスに先制点を奪われたときと同じ)。その瞬間、動いていたのは右サイドを駆け上がる桜井だけだった。止まった足はすぐに解凍されて自分たちのゴールへと向かったのだが、時すでに遅し。札幌ドームの観客は、桜井の見事なVゴールの直後のゆりかごパフォーマンスにブーイングすることしかできなかった。コンサドーレの選手はいつものようにフィールドを半周してスタンドに挨拶したが、拍手もコールもブーイングもなかった。もう、何も考えられなかった。

1点を先制した後に追加点が取れなかった、残りわずかの時間を逃げ切れなかったといったことは、この試合に限ったことではなく、すでに語り尽くされている。それは確かにそうだ。ただ、細かいことをいえば、同点弾のロペスにせよ、Vゴールの桜井にせよ、いずれもコンサドーレが左サイドが崩されているのはとても気になる。ロペスの同点ゴールのときは(セットプレーの直後だったとはいえ)ついていったのが佐藤尽だけだったし、桜井のVゴールに至ってはまったくケアできていなかった。いずれも、本来なら和波がカバーすべき領域だ。和波を戦犯にするつもりはないが、メンタルの弱さだけを敗因にするのもどうかとは思う。これから先、厳しい戦いが続いていく中では、そうした細かい問題点を一つ一つ修正していかなければ、結果はついてこないままだろう。


ヴェルディサポーターは数えるほど 89分までは勝利を確信していたのだが…
Vゴール前に力なくゴール裏へ挨拶に向かう選手たち