[第2節]in札幌ドーム:FC東京戦

文/武石淳宏

“ドーム初勝利は遠く・・・・”

2ndステージ第2節。札幌ドームにFC東京を迎え、2-5の大敗を喫する。

まさかこんなゲームになるとは思っていなかった。人生いい時もあれば悪い時もあるように、「長いリーグ戦、こんなゲームもあるさ」と言い聞かせ、「できの悪い息子ほど可愛い」なんて健気に思いながらゲーム後の人混みに流されていた。とは言っても、2つのオウンゴールを含む5失点には、さすがに目が虚ろになったのも事実だ。産声をあげてたった5年のコンサ。「20年に1度優勝してくれりゃええんや」とうそぶく阪神ファンのように、急にタフになれるものでもない。ゲーム途中で帰路につく多くのサポの気持ちは分からなくもなかった。

  • コンサスタメン
    • GK 佐藤
    • DF 森、今野、大森
    • MF 田渕、ビジュ、アウミール、和波、山瀬
    • FW 播戸、ウィル
    • (リザーブ ・GK藤ヶ谷 ・DF森川 ・MF伊藤 ・FW黄川田、曽田)
  • コンサ途中出場
    • (45分:MF和波→FW黄川田、69分FW播戸→曽田、71分DF大森→DF森川)
  • FC東京スタメン
    • GK 土肥
    • DF 小峯、伊藤(哲)、サンドロ、藤山
    • MF 浅利、三浦、佐藤、ケリー、小林(成)
    • FW アマラオ
    • リザーブ ・GK小沢 ・DF梅山 ・MF加賀美、増田、喜名)
  • FC東京途中出場
    • (74分:MF小林→MF加賀美、84分FWアマラオ→増田、89分MF三浦→MF喜名)

キャプテン野々村とDFのリーダー名塚をケガで欠いたうえ、前節いい動きを見せてくれた森下を出場停止で欠くコンサドーレの布陣はいかにも苦しい。対する東京はベストメンバーと言っていいのだろう。1stステージ前半はトゥットの穴を埋めきれず苦戦していたようだが、ステージ後半からケリーがフィットし結果を出している。両チームともに地味なラインナップだが、ケリー、佐藤由紀彦、三浦文丈らが構成する東京の中盤は小気味よく、アマラオの決定力は侮れない。

コンサドーレはボランチをビジュ、アウミールで固め、名塚の位置に今野の抜擢となった。今野は2月の世界ユース予選で左のDFをこなし、前線へのフィードにはやはり非凡なものを感じさせたが、リベロの位置ではプレーしていなかったはずだ。それに、その後ボランチに入ってからの方がはるかにいい動きを見せていた記憶がある。恐らくほとんど経験のないであろうリベロをどこまでこなせるのか、期待とともにさすがに不安を覚えた。ゲームでは名塚より運動量が豊富で(動き過ぎ?)、よくスペースを埋めていたが、やはりラインコントロールは荷が重かったか・・・。早いプレスからの速攻を組み立てるには、やはりある程度ラインを上げ中盤をコンパクトにしたいのだが、この日DFラインはなかなか上がりきれていなかった。ただ、それは今野だけの責任ではないと思う。森も心なしか怖がっていたし、ラインのコンビネーションがあまりにバラバラだった。もともとあまりオフサイドトラップを多用しないコンサだけど、それを差し引いてもこの日は全くと言っていいほどオフサイドが取れていなかった。

同じように名塚を欠いた1stステージのエスパルス戦も2-5の大敗だった。確かに名塚の欠場は大きかったが、代役古川もそこそこやっていたように見えた。やはり、名塚の不在うんぬんの前に、エスパルス相手ではいかんともしがたい実力の差があったと思う。スピードとマンマークなら森川だが、カバーリングやポジショニングなら古川も使えないことはないような気がするのだが・・・。今野を抜擢したのは監督の大きな期待の表れであると同時に、一種の賭だったのかもしれない。結果的に裏目に出たが、若い今野を責める気にはなれない。彼には将来がある。こんなことで落ち込まないで成長してほしい。気なるのはベンチにも入らなかった古川の方だ。監督がリスクを自覚しながらも未知数の今野を起用したということは、もう古川は使えないということか?勝負事だからいろいろなリスクが伴うが、経験豊富なベテラン選手がモチベーションを失うというリスクを、監督はどこまで考えたのだろうか。少々気にはなる。

ゲームの方は、開始早々、山瀬の素晴らしい突破から得たPKを、ウィルが例のごとく落ち着いて決め幸先の良いスタートとなった。しかし、その後オウンゴール2連発であっさり逆転され、前半終了間際にはPKを献上し、何ともイライラの募る展開で前半を終える。オウンゴールには運が悪かったとしか言いようがないものもあるし、相手をほめるしかないこともある。しかし、この日見せられたのはなんとも後味の悪いオウンゴールだった。特に最初の失点など、きちんと声をかけ合っていれば何のことはないのに・・・。確かに絶妙のタイミングで放り込まれたボールだったけど、「DFとGKの連携が悪いとこうなる」という見本のような失点だった。PKを与えた場面はよく見えなかったのだが、大森の抗議を見ると微妙な判定だったのかもしれない。しかし、「李下に冠を正さず」だ。PA内での「微妙」なプレーは避けた方がいい。結局前半は、先制しながらオウンゴールとPKで3失点の1-3。コンサも、山瀬の動きなどなかなかキレがあったし、全体としてもボールはよく回っていたが、サイドを封じられ、何よりDFの連携が乱れてしまった。点の取られ方があまりにも悪くスタジアムの雰囲気はさすがに重かった。

前節、スピードを生かしナイスゴールを決めた和波だったが、この日は佐藤由紀彦とのマッチアップに早々に存在感を失っていた。案の定、和波は前半で退き後半から黄川田を投入、右の田渕はサイドバックに下がり、お決まりの4バックにして後半の反撃に望みを託す。相手が4バックの時、岡田監督は3トップにしたり4バックにしてそのサイド攻撃に対応するが、3トップにしても4バックにしても中盤が1人減るということで、どうもコンサらしい攻撃ができなくなるように思える。サッカー歴の長い友人によると、4バックにした時、ボランチ・ビジュのポジショニングに問題があるらしいのだが、僕にはよく分からない。4バックへの変更は攻撃ということより、これ以上の失点を防ごうという意図なのだろうけど、そうせざるを得ないくらい東京のサイド、特に右の由紀彦が好調だったということか。

理想を言えば、4バックを崩すにはやはりサイドチェンジを絡めたサイド攻撃が有効に思える。センターは固いし、ゾーンの相手にはサイドチェンジで揺さぶりをかけ続け、サイドに早くていいボールを出すことが効果的だ。昨年7月29日、厚別でのレッズ戦、田渕の同点ゴールはエメルソンの素晴らしく正確なサイドチェンジのキックから生まれた。このサイドを変えるキックは正確でなくてはならない。これをカットされ、一気に攻め上がられると失点することも多いからだ。キックの精度が今ひとつでパスカットが怖いからか、このゲームに限らずコンサドーレはなかなかサイドチェンジを効果的に使えない。そんな普段できないことをやるくらいなら、お決まりの4バック作戦で反攻に転じようということか。

点の取られ方があまりにも悪すぎてどうも勝機が感じられないまま突入した後半だったが、そんな嫌なムードを振り払ってくれたのはやはりエースだった。後半開始早々ウィルが全くあっぱれなFKを直接決め、2-3と1点差に詰め寄った。これで勝負は分からなくなり、イレブンもスタンドも俄然盛り上がりをみせた。コンサドーレは激しく攻め込み、ここで追いついていたらこのゲームは本当に分からなかったと思う。しかし、東京DF陣は粘り強かった。

和波が退き田渕がラインに吸収されると、覚悟の上とはいえコンサドーレはサイドが使えない。結果、中央から攻めることになるが、こうなると東京DF陣は待ってましたとばかりにコンサドーレの攻撃を次々と網にかけていく。小峯のしぶとい寄せ、サンドロの冷静なポジショニング、集中が途切れることなくいい守りを見せていた。キレキレの由紀彦の前に和波の交代はやむを得なかったとしても、どうしても気になったのは黄川田の動きだった。攻撃的なサイドアタッカーを下げて上背のある俊足FWを投入したということの意味を、黄川田自身はどう理解したのだろう。もう少しターゲットとして前線で動くとか、裏に飛び出すとか・・・。一方、播戸に代わった曽田は荒削りながら可能性を感じさせてくれた。

4バックを崩すには素早いサイドチェンジが非常に重要な戦術だと思われるが、もし森下が出ていたらどういう展開になっていただろうと、ちらっと考えた。まぁ、そんなタラレバは全く意味がないが、前節鹿島戦で、彼は豊富な運動量とムダのない動きとともに、いいタイミングでサイドを変える正確なキックを見せてくれたという記憶があるのだ。(記憶違いかな?)彼はいかにも岡田監督好みで、選手層が薄いコンサにとっては本当に貴重な戦力になりそうで、とても楽しみだ。

結局最後までサイドを使えなかったコンサだったが、攻撃に見るべきものがなかったわけではない。ウィル、山瀬、アウミールらが絡んだ、短いパス交換からの中央突破は、もう一歩でゴールというシーンもあった。ゲームの結果からどうしても守備の乱れに目がいくが、攻撃時はボールもよく動き、そう悪くはなかったと思う。しかし東京DFは堅く、結局3点目は奪えなかった。そして、前がかりになったところを虚をつかれたようにまたしても由紀彦に突破され、アマラオに素晴らしいミドルを決められる。2-4。ここで「勝負あり」だった。その後は明らかに集中も切れ、足も止まり、最後は文丈にきれいにヘッドで決められる。King of Tokyo・アマラオのシュートはさすがだったし、由紀彦が上げた文丈へのクロスなど、「お前はベッカムか?」と言いたくなるようないいボールだった。「由紀彦!来季は札幌に来てくれ!」やけくそでそう叫ぼうかと本気で思った。

この日はなんだか「ゴールのフルコース」を見せられたようで、さすがにゲップが出た。野球風に言えば「両チームあわせて7ゴールの乱打戦」というところか。オウンゴールあり、PKあり、ファインゴールあり・・・。全くゴールにもピンからキリまであるものだ。情けないオウンゴールも、ウィルやアマラオの素晴らしいシュートも、ゴールはゴール、1点は1点で、数字上は全くの同価値である。まぁ、当たり前のことだが、考えようによっては奇妙にも思える。もしサッカーを全く知らない人が見ていたら、「明らかに「価値」が違うゴールではないか?」と文句を言ったかもしれない。バスケットの得点に1点、2点、3点の別があり、スローイングの状況や位置によって「価値」が明確に区別されているのはいかにもアメリカンスポーツらしい。サッカーはファインゴールだろうがオウンゴールだろうが、PKだろうが1点は1点で、とにかく相手のゴールにボールを押し込めばいいのだから、まぁ、これ以上の単純さもないが、こんな単純さは時にどうしようもない理不尽さを帯びる。

さて、これで2ndステージ開幕2連敗となった。第1節の鹿島戦は決して悪くなかったが、この日の5失点はいただけない。さすがに弱気になってしまうが、まだ第2節、顔を上げて前へ進もう。どんなチームにもいい時があれば悪い時がある。ケリーがフィットし東京が調子をあげてきたのは1stステージも後半になってからのことだ。今ドン底をあえぐセレッソは昨季1stステージ優勝争いに絡んでいたし、今季1stステージ2位のジェフは、開幕は連敗スタートだった。とにかく、リーグ戦を通して常に好調、あるいは不調というチームはない。早く立て直してくれることを期待したい。ただ、今は放っておいても自然治癒するような「かすり傷」ではもはやないようだし、思い切って手術を施すのか、あくまで原点に立ち返ることにこだわり続けるのか、いずれにしてもなんらかの方向を示してほしいと思う。監督の言動から大きな補強はないようだが、しかし、主力が離脱し、迷走を始めたチームを立て直すことは容易ではなさそうで、何らかの「ショック療法」があってもいいような気もする。今となっては、開幕の頃の鮮やかなコンササッカーが、遙か昔のことのようだ。

結局、エースが仕事をしても守備のチームが5失点しては勝負にならない。ウィルのFKは本当にすごかったのだが、あんなに素晴らしいFKも終わってみれば、勝負を決めるキックでも、流れを変えるキックでもなんでもなかった。本当なら、「あんなFKが見られて幸せだったよ。」なんて得意気に話題にするプレーなのに、ほとんど誰の記憶にも残らないという悲惨な結末となった。守備が破綻し、オウンゴールの2点を含む5失点では、ウィルのファインゴールなどすっかり忘れられ、大敗の屈辱感や怒りだけがサポの記憶に残っていくのだろう。せめて僕は忘れないでおこうと思った。この日の2点目は、戦意喪失しかけていたイレブンを再び勇気づける素晴らしいゴールだったことを。今も目に焼きついているあのボールの軌跡を、絶対忘れないでおこうと思った。まぁ、アマラオのミドルもとんでもなく絶品だったけど、これはとっとと忘れることにしよう。

こんなゲームでも最後まで見届け、「できの悪い息子ほど可愛い」だなんて、我ながら健気というか我慢強いと思った。正直に書いてしまうと、オウンゴール2連発の時点で「二上さんゴメン、今日はこれで帰ります。」とマジで思った。観戦記の依頼がなく、妻が一緒でなければければ途中で帰っていたかもしれない。(実は、後ろで小学生が叩くメガホンがとても耐え難かったということもあったが・・・)ホームでのオウンゴール2連発なんて本当に見たくなかった。ゲーム後、さしてブーイングも聞こえてこなかったのは、さすがに意外に思われた。

次節は、新監督を迎え、外国人を補強、俊輔も復調しつつあるマリノスとアウェイで戦う。正直苦しいが、次負けるとずるずるいく可能性もあり大切な試合になるだろう。森下が戻ってくるのは明るい材料だ。ここは何としても踏ん張って、是非勝ち点がほしい。

(追記)
ひととおり書き終えたところで、今、まさにたった今、「アウミール解雇」の報が飛び込んできた。驚いた。なんというタイミングか・・・。「何らかのショック療法があってもいいかも」などと能天気に書いたばかりでなんだが、やはりショックというか、複雑な気持ちになる。先日、宮の沢で練習を見学した後、早く帰ろうという私を引き止め、妻が選手達にサインをねだっていたのだが、アウミールのサインも嬉しそうにもらっていた。にこやかにペンを走らせる彼は、なんだかプロのスポーツ選手というより優しい学校の先生という風情だった。確かに外国人枠の一つをつぶす「助っ人」としては物足りなさがあり、「コンサに残るには帰化するしかないかなぁ」なんて話す友人もいた。エメルソンがいたからこそ持ち味が生きた面があったが、昨季、間違いなく昇格の功労者であった。最後のゲームが東京戦だったというのも何かの因縁か。キックオフ前の選手紹介、Almir Moraes Andrade!のアナウンスに東京サポも盛んに拍手を贈っていた。