[第13節]in札幌厚別:ジェフ市原戦

文/武石淳宏、写真/大熊洋一

“J1の壁 ~ここががんばりどころだ~”

今日は1stステージの正念場といってもいいホームでの戦いとなった。どんな時も勝利を目指すのは当たり前だが、今日は絶対勝たなくてはいけない。
7月7日、厚別に好調ジェフを迎える。

前身は古河電工サッカークラブである。天皇杯を何度か制し、アジアクラブ選手権のチャンピオンに輝いたこともある。日本リーグ時代も二部落ちを経験していない名門中の名門だ。しかし輝かしい伝統とはうらはらに、どういう訳かJリーグではあまりぱっとした印象がない。かつて室蘭出身の天才MF京谷和幸が在籍していたこともあって、結構気になるチームだったのだが、思い出すのはリティの華麗なドリブルとか、木澤のスピード溢れるオーバーラップとか、そんな断片的な個人プレーばかりで、チームとしての印象があまりにもない。

ジェフには昔からいい外人が多かった。リティはいうまでもないけど、マスロバルは渋かったし、オッツェは点を取りまくっていた。コンサにも在籍したパベルもジェフではよかったし、ルーファーなんてのもいたなぁ。平成5年だったか厚別での対ヴェルディ戦、リティの美しいコーナーキックは今でも忘れられない。この外人選手の系譜はとても豪華だ。しかし、どうもチームとしての一体感が印象としてまるでない。いい外人を集めメンツを揃えても必ずしも勝てない、みたいなチームだった。そういえば、リティがとんでもない神技ドリブルをみせていた頃、市原臨海は満員で宮沢ミッシェルの髪は今よりだいぶ多かった。ホント懐かしい。

・・・と、のんびり懐かしんでいるヒマは全くない。J1での戦いも12試合を終え、コンサドーレは5勝5敗2分け、勝ち点17の5位に位置している。よくやっているが、この3試合勝ち星がなく歯がゆいゲームが続いている。対するジェフは好調で、安定感のあるいい戦いをしている。今日は1stステージの正念場といってもいいホームでの戦いとなった。どんな時も勝利を目指すのは当たり前だが、今日は絶対勝たなくてはいけない。

夏空の下、ゴール裏を真っ赤に染め上げるコンササポ

コンサスタメン

  • GK:佐藤
  • DF:森、名塚、大森
  • MF:田渕、ビジュ、野々村、山瀬、アウミール
  • FW:播戸、ウィル
  • コンサリザーブ:GK藤ヶ谷・DF森川・MF和波・FW黄川田、曽田
  • コンサ途中出場:黄川田(田渕:83分)、曽田(黄川田:89分)
  • コンサ得点:ウィル(43分)、播戸(65分)

ジェフスタメン

  • GK:櫛野
  • DF:田畑、中西、吉田
  • MF:坂本、長谷部、武藤、山本、ムイチン
  • FW:大柴、崔
  • ジェフリザーブ:GK立石・DF金・MF佐藤(勇)、井幡・FW佐藤(寿)
  • ジェフ途中出場:佐藤(寿)(山本:79分)、井幡(佐藤(寿):100分)
  • ジェフ得点:崔(7分)、崔(67分)、井幡(106分)

ボールと選手がスピード豊かに動くいいサッカーだった。足が動かないコンサイレブンとのコントラストは全く見事で、ホントにどっちがホームチームなのかわかりゃしない!
開始早々、コーナーキックからボールをつながれ、崔にあっさり決められる。崔のポジショニングはさすがだったが、コンサDFの足は止まり、ボールウオッチャーになっていた。序盤から1点を追う展開となる。キックオフ早々にスコアが動くことはそんなに珍しいことではないが、サッカーというのはあまりにロースコアなボールスポーツなので、開始5分での得失点をゲームプランとして描いているチームなどない。思わぬ先制に、逆にリード後のチーム戦術に綻びが生じることもある。時間は十分ある、今季初の逆転勝ちを見せてほしいと思った。

しかし、コンサドーレのできは全く悪い。ジェフは早い時間帯の得点にも守備的になることなく、リズムよく自分達のサッカーを続ける。中盤をコンパクトに保ち積極的なプレスをかけ続け、コンサドーレはほとんどまともにボールに触れなかった。セカンドボールはことごとく奪われ、凡ミスの連続に目を覆ってしまった。猛暑の関東から逃れてきたジェフにとっては、このサッカーに最適なコンデションが何よりもうれしかったのかもしれない。「市原臨海よりずっとやりやすいぞ!」なんて思っていたのではないかと勘ぐってしまうくらい、黄色いユニホームたちはのびのびプレーしていた。ボールと選手がスピード豊かに動くいいサッカーだった。足が動かないコンサイレブンとのコントラストは全く見事で、ホントにどっちがホームチームなのかわかりゃしない!

リーグ戦はキリンカップをはさみ前節から2週間のブレイクがあった。代表にかすりもしなかったのはジェフも同じで、両チームにとってこの2週間みっちり相手を研究しチーム戦術を深める時間があった。果たしてジェフはちゃんとコンサを研究していた。「スペースを与えない」「速攻をさせない」「ウィルを徹底的にマークする」ピッチを走り回る黄色の選手たちからはそんな確認事項が伝わってきた。コンサドーレがボールを奪っても、見事なまでにパスの出しどころを与えてくれない。苦し紛れのロングボールも精度を欠き、ウィルはほとんどボールに触れなかった。たまにウィルにボールがつながっても、あっという間にDFに囲まれ何もできない状態になる。ウィルと播戸のコンビネーションも今ひとつだったし、さすがに疲れているのか山瀬は精彩を欠き、とにかくゴールの予感が全くないままゲームは進む。

不甲斐ないプレーの連続にさすがに厚別の女神も見るに見かねたのだろうか。前半終了間際、田渕の積極的な飛び出しからPKを得る。ウィルが落ち着いて決め、いいところが全く無かった前半も終わってみれば1-1のタイスコアで、これには思わず笑ってしまった。サッカーとは全く不思議だ。もしボクシングや柔道のようにジャッジの採点が勝敗を決することがあれば、明らかに前半はコンサドーレの負けだった。2点目を取られなくてよかったところを、PKで同点に追いつけたのだから全くラッキーだ。本当のことを言ってしまえば、ジェフとしては前半で勝負を決めるべきゲームだった。そういう意味では、連勝中とはいえ調子は今ひとつだったのかもしれない。

89分間集中を保っても勝負どころの1分で集中を欠いては何にもならない。過酷だがDFの仕事とはそういうものだ。
ハーフタイム、監督の檄がとんだことだろう。やっと目を覚ます。お互い似たようなプレッシングサッカーを持ち味としており、後半からは見応えのあるゲームとなった。前半どうしても分からなかったのは、なぜDFの裏を取るようなボールや動きだしが見られなかったのかということだったが、後半は田渕や山瀬が前線にボールを放り込んでいた。播戸もいい反応を見せ、勝ち越しのゴールとなった播戸のシュートは田渕のロングボールから生まれた。確かにかっこいいサッカーではないけど、今日のように手詰まりの展開では、時に単純にボールを放り込んで播戸を走らせればいいのだ。どうして前半にそういう試みがなかったのか・・・・・。

しかし、リードの時間はあまりにも短かった。勝ち越したのも束の間、直後に追いつかれてしまう。再び崔のヘッドだ。大柴のクロスを高い打点からきれいに決められ、厚別は再びため息に包まれる。足がもたつき大柴に簡単に振り切られた森、そしてゴール前で崔を簡単にフリーにしてしまった名塚。DF陣は疲れているのだろうか?確かに大柴の切り返しは見事で、崔の能力は高い。それにしても・・・・・。89分間集中を保っても勝負どころの1分で集中を欠いては何にもならない。過酷だがDFの仕事とはそういうものだ。それはジュビロ戦やグランパス戦で高い授業料を払ったばかりではないか!ここでの失点をきちんと防いでおけば勝機は十分あったのだが、まぁ、連敗中のチームとはこんなものかもしれない。

ジェフには昔からいい外人が多かったが、まさにその伝統は生きていた。右膝に爆弾を抱える崔はフルに働けないだろうと、開幕前勝手に高をくくっていたのだが、さすが韓国代表、ここまでいい働きをしているし、今日も素晴らしかった。上背もあり身体能力が高いうえ、足下のボールタッチはまるでマッケンローのボレーみたいに柔らかい。同じ10番でこうも違うものかと、さすがに暗澹たる気持ちにさせられた。ムイチンもトップ下でよく動いていた。マスロバルとは違って運動量が豊富で、正確なキックを武器に時に左に流れながら攻撃の起点となっていた。貧乏チームから見るとこのような補強ができるのはうらやましい限りだ。

再び同点となり、コンサも攻めるが中西を中心とするジェフの守備は強固だった。結局90分で決着はつかず延長戦となる。延長に入ってからも、お互い攻め合うが決め手を欠く展開が続く。両者ともに運動量の多いゲームだったが、延長前半が終わる頃にはコンサドーレはガス欠寸前だった。足が動かないコンサに悪い予感がちらつく。そして、延長後半開始早々、悪い予感は現実のものとなった。崔が非常にうまくためを作り、タイミング良く切れ込んだフリーの井幡にボールが渡る。井幡のシュートはネットを揺らし、厚別は沈黙した。結局はまたしても崔にやられたのだ。同じ選手に3度もやられるとは・・・。頭の中は真っ白だった。しーんとなった厚別で、立ちつくすコンサイレブンと歓喜乱舞する黄色いユニホームたち・・・・。呆然と見つめるしかなかった。「そういえば昔はサドンデスと言ってたんだよなぁ・・・」とふと思った。Sudden Death、なんと正しいネーミングか・・・・。

昨季オフ、エメルソンが去り、紆余曲折の末にアウミール、ビジュの残留が決まった時点で「全員サッカー」は必然となった。「全員で一生懸命戦う」、このメンバーではそれでやっていくしかない。3月10日開幕戦、「全員サッカー」の一つの結実を見せてもらい、サポの多くは不安をちょっとだけ期待に変えた。しかし、開幕から4ヶ月、コンササッカーの限界も顕わになりつつある。そして、「全員サッカー」を標榜したとき、夏場の苦戦はそれなりに覚悟していたのだろうが、実際問題これから夏場をどう戦っていくのだろう。

次節は博多でのアビスパ戦だ。なんとしても勝ってほしいが、高温多湿のナイトゲーム、不安は尽きない。その日、博多の街は祇園山笠の追い山を目前にして最高潮に盛り上がっていることだろう。山笠は博多っ子にとって最大にして最高の祭だ。500年以上の伝統を誇るこの祭の盛り上がりはYOSAKOIなど全く足元にも及ばない。市民の関心はスポーツより山笠に向かうが、アビスパもホークスも祭の熱狂のさなかに負けることなど許されない。ヒール役に徹する覚悟を固め、スタミナに注意して戦うことを祈るばかりだ。

いくら必死にコンサドーレのサッカーをやりとおしてもJ1では必ずしも勝てないことを、今日はみんなが知ってしまった。そんなことは頭ではよく分かっていたのだが、目の前にそれを突きつけられるのは辛いことだ。
98年W杯フランス大会の岡田ジャパンじゃないが、いくら組織プレーを極めても、サッカーは個人の能力であっさりやられることがある。崔の前にコンサDFはお客さんだった。一つのゲームで一人の選手に3度もやられていいものだろうか。今日、名塚は夜眠れないかもしれない。オールスターを集めても必ずしも勝てないのがサッカーだが、個人プレーの積み重ねに過ぎないのもサッカーだ。ジェフはここという勝負どころで一対一に勝っていたし、組織的にもよくまとまっていた。昔のようにリティが一人でドリブルしまくっていたジェフの方が戦いやすかっただろう。まぁ、その頃コンサドーレはまだ誕生していないけれど・・・・・。

昔のジェフの面影はなかった。いいメンバーを揃えながらも今ひとつやる気が感じられないゲームを繰り返し、かつての名門チームもここ数年は残留争いの常連だった。しかし、ベルデニック監督のもとチームはまとまり、選手達は勝ち方、勝つ喜びを完全に知ってしまったようだ。以前から若手の育成では成果を出しているし、もともと力のある選手がいるうえ、いい外人選手を見つけてくるという伝統も生きている。昨季など、チームのまとめ役としてはまだちょっと若いかと思われた中西も、長谷部という経験豊富なベテランの加入で随分楽にやれているようだ。若手からベテランのバランスがほどよくとれ、以前はかけらもなかった「チームの一体感」が強く感じられた。こうなると2位にいるのも当然かもしれない。昔、気にしていたチームでもあり、今季は「いいサッカーしてるなぁ」とテレビの前で感心していたのだが、厚別でこういう姿を見せられると気持ちは複雑だ。

今日は本当に勝ちたかった。前半はさておき、後半からは精一杯やったし、コンサらしさは出ていた。ミスもあったが力は出し尽くしただろう。しかし、だからこそ惨めな気分にもなる。ひとつの限界が露呈されてしまったようだった。いくら必死にコンサドーレのサッカーをやりとおしてもJ1では必ずしも勝てないことを、今日はみんなが知ってしまった。そんなことは頭ではよく分かっていたのだが、目の前にそれを突きつけられるのは辛いことだ。

思い出してしまったのは99年秋のフロンターレ戦、森川のVゴールで厚別が沈黙した日のことだ。悔しさと冷たい風で鼻水がグチョグチョになってしまい、妻に笑われながら半べそ状態で大谷地駅までとぼとぼ歩いた。今日は一秒でも早く家に帰りたくて、さっさと連絡バスに乗り込んだが、車内は重苦しい沈黙に包まれ、大谷地駅に着くまでほとんど皆押し黙ったままだった。ここ数試合の戦いぶり、そしてショッキングなSudden Deathに、さすがに「J1の壁」を実感したというような、そんな沈黙だった。こんな日はキムチ食って、クラシック飲んで、B・Bキングでも聴いてさっさと寝てしまおう、と大谷地駅の階段を一気に駆け下りたら、転びそうになった。


試合前イベント.ドーレくんの手はフラッグを持つには不向き!? 好調・市原を支えるサポーターたち
前半終了間際、ウィルのPKで同点に追いつく Vゴール負けに肩を落とすコンサイレブン