[第8節]in丸亀:FC東京戦

文・写真/大熊洋一

J2に戻りたいとは思わないけれど、こんなことでもなければまず行かないであろう土地にあちこち行けるという点では、J2はおもしろかった。J1に上がったら、会場は大都市圏ばかりで、いまいち面白味に欠ける感がある(春野はあったが)。

そうして考えれば、この試合が東京ではなく丸亀で行なわれたことには感謝すべきなのかもしれない。スタジアムは立派だが、アクセスの不便さ、スタジアム周辺の風景、観客席の雰囲気といったものはかなりJ2チック。おまけに、東京のホームゲームだというのに、東京サポーターは数人ずつの2グループのみで太鼓なしと、ほとんどサポ不在状態。対するコンサドーレのサポーターはかなりの人数で、もちろん太鼓もあり、試合前から聞こえてくるのはコンサドーレの応援だけだった。

(メンバー)
FC東京:GK1土肥、DF2内藤、6小峯、3サンドロ、8藤山、MF7浅利、10三浦、14佐藤、19ケリー、24小林、FW11アマラオ(R:22小沢、15伊藤、23喜名、17鏑木亨、9呂比須)
コンサドーレ札幌:GK1佐藤、DF3森、5名塚、6大森、MF2田渕、7野々村、8ビジュ、10アウミール、18山瀬、FW11播戸、9ウィル(R:21藤ヶ谷、4森川、20和波、17大黒、13深川)

試合の90分前に小雨が降ったこともあり、やや蒸し暑さを感じるなか、13時過ぎにキックオフ。おなじみの布陣のコンサに対し、東京は、1トップのアマラオの後ろに左から小林、ケリー、佐藤と3人のアタッカーを並べ、浅利と三浦が守備的MFを務める4-2-3-1のフォーメーション。お、欧州の流行を取り入れたのね、東京もなかなかやるな、などと思っていると、いきなり野々村のミドルシュート(→浅利が足を出してブロック)。 2分、ペナルティエリアの少し外側で田渕がケリーの背後からタックルを仕掛けファウルを取られた。東京FK、ケリーがアーリークロス気味にゴール前へいいボールを放りこみ、そこへ後ろからフリーで入ってきたアマラオがヘディング、ああぁーっ!!!…ボールはクロスバーをかすめてゴールマウスの後ろへと飛んでいった。この時点では「こういうのを決めないと勝てないんだよね」などと、のんきな会話をしていたのだが…。

この後しばらく、両チームとも様子見の時間帯が続き、会場にはまったり感が漂い始めた。といって、けっしてお休みモードに入っていたわけではなく、コンサドーレはあえて相手に持たせて速攻をねらっていたのだと思う。9分、右サイドハーフウェー付近でボールを持った田渕が中の野々村に渡すと、野々村はすばやく縦に入れて播戸、播戸は体の向きをさっと変えてこのボールをスルーし、すぐ前の山瀬がボールを受ける(前節の1点目に至る動きの逆パターン)。山瀬は、右に開いていたウィルに出す。ウィルがDFに囲まれながらもキープする間に播戸が登場、ウィルから播戸の足元にボールが入り播戸シュート!が、東京DFが足を出しコーナーキック。11分にはハーフウェーから少し自陣に入ったところでボールをもらった播戸が長くて速いパスを前線へ送り、ウィルがDFに挟まれながらもコーナーキックを得る。この辺は今年のコンサドーレの真骨頂といったところ。東京は、ボールは持ててもパスをコンサドーレの選手に当ててしまうなどプレーの精度が低く、13分には浅利がビジュの足を払ってしまいイエローカード。

と、この辺まではコンサドーレのリズムかと思ったのだが…

21分に森がアマラオへのタックルでイエローカードを受けたあたりから、東京のパスがつながりはじめた。コンサドーレは、最下位相手なら楽に勝てると思ったのか、それとも連戦の疲労なのか、清水戦で見せたような気迫が感じられず、相手がボールを持ったときのチェックがいかにも遅い。各選手のプレーは緩慢といってもいいような状態で、とりわけ、函館では何度もピンチの芽を摘んだ野々村のパフォーマンスの悪さが目立った。とにかく、チェックに入っても簡単に相手にボールをつながれてしまうのである。

28分、東京は右サイドを突破した佐藤由紀彦がクロスを入れ、ゴール前でフリーの小林がオーバーヘッドシュートを試みるも空振り(とはいえ、どこかに当たっていれば1点モノだった)。続いて30分には森が小林をケアする間に藤山がオーバーラップ、藤山はそのままドリブルでゴールへ迫り佐藤洋平と1対1になりかけたところでクロス、中央のカバーに入った野々村がスライディングしながらかろうじてクリア。32分は洋平のゴールキックがミスキックとなって小林の足元に入ったところから東京のカウンターを食らい、小林のクロスが「どフリー」のアマラオの足元にどんぴしゃで入るもアマラオがふかして事無きを得る。

コンサドーレは34分に速いパスを縦につなぎ播戸がシュートまで持ちこむが、東京GK土肥がナイスセーブ。40分には中盤から右へ出たボールをウィルがキープ、サンドロをくぎづけにしたまま外へ入ってきた田渕へ出し、田渕のクロスを山瀬がヘディングも左にはずれる。と、ここから今度は東京がカウンターを仕掛け、攻撃する東京3人に対し守るコンサドーレは2人の大ピンチとなるも、東京のシュートを洋平が足一本でセーブ(もっとも、このシュートはオフサイドで取消になるのではあるが)。43分には攻めあがりかけた東京から野々村がボールを奪うとすぐに縦に入れて播戸に預け、ポストとなった播戸からボールを受けたウィルが強烈なミドルシュート(バックスタンドにいても「バスッ!」というものすごい音が聞こえた)。しかしGK土肥ナイスセーブ。

こうして書いていくと、非常にスリリングな前半だったようにみえるが、じつは、かなり退屈であった。とくにコンサドーレはひどく集中を欠いており、マイボールになったら播戸かウィルに預けるという約束事(?)は徹底されていたものの、そこに至るまでの1対1でかなり競り負けていた。競り負けというよりも、傍目には、競っていないのではないかと思えることすらあった(そんなことはないのだろうが)。それに対して、東京は、プレーの精度は低くとも、最終ラインの4人はきっちりと体を寄せてくるので、コンサにとってはかなり厳しい試合になりそうだなという予感は前半の終わりごろからしていた。

後半が始まると、コンサドーレの動きの悪さはますます目立ってきた。前節(清水戦)では前線に残り続けたウィルは、ボールを求めて中盤に下がってくるどころか、自分の前がふさがれるとなんと最終ラインにまで下がってきてしまい、まるで悪いときのウーゴ・マラドーナ。これはまずいよなぁ…と思っていたら、やっぱりやられてしまった。後半6分、コンサドーレのゴール前に放りこまれたロングボールを小林が落とし、アマラオがこれをキープ。ビジュと大森が体を寄せていったものの詰めが甘く、洋平まで飛び出してきたところでアマラオが軽く蹴ったボールがころころとゴールの中へ転がっていった(あるいは、誰かに当たっていたのかもしれない)。コンサにとっては一瞬のすきをつかれたような形での失点であった。

12分、アウミールと山瀬を下げ、和波と大黒を投入。アウミールと大森の左サイドはコンサドーレの生命線であるはずだが、この試合では東京の右サイドに張った佐藤由紀彦にやられっぱなしで、左からはまったくといっていいほど攻撃を組み立てることができないでいた。前節でも市川の攻めあがりに対応するのが精一杯で、コンサドーレの左サイドは完全に死んでしまっている。負傷上がりのアウミールではやはり厳しいということか…。

14分に野々村が左に振って和波のクロスからコーナーキック、17分には大森が和波を追い越してクロスを上げたところに播戸のジャンピングボレーシュート(ゴール右にはずれる)、21分は東京が攻めに転じようとしたところでボールを奪った大黒から播戸へのパスで播戸シュート(大はずれ)と、コンサもチャンスは作っていくが、いかんせん散発的。しかも、ウィルが下がりすぎているために、せっかくボールを奪っても前線にいるコンサドーレの選手は播戸だけという状況が生じてしまっていた。東京は、先制点を奪ってからというもの、浅利と三浦がより引き気味になっており、ゆえに大きくあいた中盤のスペースではコンサドーレが自由にボールをまわすことができるようになっていた。ウィルが下がってきたのもそれが原因の一つではないかと思うのだが、その広大なスペースにウィルが加わることで、コンサドーレの攻撃はまるでパスまわしに酔いしれているのではないかと思うような展開になってしまっていた。これは清水戦の後半でも多少感じていたことなのだが、パスがまわるからといってパスをつないで崩そうとすることで、コンサドーレのよさが消えてしまっている。もっとシンプルに、縦にボールを入れていけばいいと思うのだが…。

26分、突然、大粒の雨がものすごい勢いで落ちてきた(もっとも、ピッチ上では「突然」だったと思うが、バックスタンド上段からは、遠くのほうがだんだんと暗くなってきていたのが見えていた-だから、僕はかなり迅速に雨具を用意できた<どうでもいいことだが)。ガラガラのスタンドゆえに観客があっち行ったりこっち行ったりとざわざわしはじめ、なんだか落ち着かないなぁと思いながらふとピッチに視線を戻したとき、名塚のそばでアマラオが倒れた。バックスタンドからでは何が起きたのか分からなかったが(とにかくものすごい雨だったので)、レフェリーの動作で、PKになってしまったことが分かった。アマラオが蹴るのかと思ったらキッカーは佐藤由紀彦。あっさり決めて2-0。

30分、播戸OUT、深川IN。そうか、播戸を引っ込めることでウィルを前線に張りつけるのかと思ったが、ウィルはやはり中盤に下がったまま。焦りから雑なプレーが多くなってきたコンサを見ながら、僕は、J1参入決定戦を思い出していた。序盤の妙な余裕(あるいは疲労なのかもしれないが)といい、思わぬ失点での焦りといい、あの参入決定戦のときとまったく同じだ。コンサドーレはそんなに強いわけではないのに、簡単に勝てるだろうと思って臨んでしまったのではないか(それは、スタンドから見ている僕にしても同じである)。まさか、清水戦での果敢な攻撃姿勢で燃え尽きてしまったわけではなかろうが…。

36分にビジュの強烈なロングシュート(土肥はよく止めたと思う)、41分にはウィルが対角線上にグラウンダーのシュート(ファーサイドのポストに当たる-が、あの大雨の中でこういうシュートを放つウィルの技術にはあらためて驚かされた)と2度のチャンスがあったが、こんな試合では勝てないだろうなと、僕は勝手に決めつけていた。だから、ロスタイムに入ったところで、野々村のFKをファーサイドの名塚がヘッドで折り返しウィルが押しこんで1点差にしたときには、正直、驚いた。これで追いつけるとは思わなかったが、それでも、ビジュがゴールの中からボールを拾ってセンターサークルへ走ったときには、まだ時間はあるんだ、もう1点だ、と、自然に声を上げていた。慢心があったとしても、こうして意地を見せることができるあたりは、一昨年や、その直前の参入決定戦の頃との大きな違いである。昨年のJ2リーグで培ってきたタフな精神力は、確実にチームに宿っている。

結局、このまま、東京2-1コンサで試合終了。よくあることだが、試合が終わる頃になって雨が上がった。

連敗は確かに痛い。が、僕は、あまり悔しさを感じなかった。コンサ各選手の余裕を持ちすぎた(というか、緩慢な、というか)プレーを見ていたら、この試合は、負けるべくして負けたと素直に(というのもへんだが)思えたからだ。前半、あれほどまでに東京に決定機がありながら0-0で乗りきれたことなどは奇跡に近く、それでも負けてしまったのだから惜しかったなどというレベルではない。自滅に近い完敗であったと思う。

だからといって、悲観する必要などまったくない。もう一度原点に戻って、激しいディフェンスにシンプルな攻撃を続けていけば、そう大崩れすることはないと思う。この試合は、それを再認識するためのいい教訓だった、ぐらいに考えればいいと思う。厚別では、きっと、やってくれるはずだ。


丸亀陸上競技場全景 ホームチームFC東京のサポーターは少数
コンサドーレは終了間際に1点を返すも及ばず 大雨の中、最後までがんばったコンササポ
途中、大粒の激しい雨で観客が避難(^^;)。メインスタンドでは屋根のある後方部分にみんな集まっているのがわかりますでしょうか