コンサドーレ戦術解析3(4-4-2と3-5-2の比較)(1997年版)

4-4-2と3-5-2

三回目は、ちょっとコンサドーレの話から離れてしまいますが、昨年と今年用いられているフォーメーション4-4-2と3-5-2の比較を行ってみましょう。

上に、4-4-2と3-5-2の選手の位置関係を図示します。コンサドーレ札幌は、昨年のシーズンは左側の4-4-2。今年のシーズンは、右側の3-5-2のシステムを取っています。MFとDFの数が両システムでは異なっています。両システムとも、FW、DF、GKの位置関係はほぼ図の通りですが、MFに関しては、千差万別。チームによって様々なポジショニングを取ります。

例えば、4-4-2を例にとると、上に示した左側が、攻撃的MF2人、守備的MF2人のダブルボランチシステム。守備的MFのことをボランチと呼び、これが二人いるので、ダブルボランチシステムと言います。このシステムの一つの完成形は、94年ワールドカップアメリカ大会で優勝したブラジルでしょう。この大会で優勝したブラジルがこのシステムを用いたことで、世界的に流行の兆しがでたシステムでもあります。昨年はコンサも、このシステムを開幕当初は用いましたが、うまく機能しませんでした。結果、攻撃力不足が問題になり、ボランチ一人を攻撃的MFに上げたシステムに変えました。これが、上の右側のシステムです。MFが菱形に並ぶので、ダイアモンドフォーメーションと呼ばれています。ただ、コンサドーレの場合、攻撃に割ける人数を増やすことで、得点力アップを目指したわけで、決して、ダブルボランチシステムが攻撃力が足りなくなるフォーメーションというわけではありません。W杯で優勝したブラジルの攻撃力はすさまじいものでした。すべては、選手個々のキャラクターと能力にかかっています。MFのフォーメーションには、ここに示したもの以外にもいろいろなものがあります。

次に、3-5-2のシステムですが、このシステムの一つの完成形は、90年W杯イタリア大会で優勝した西ドイツ(現ドイツ)のフォーメーションに見ることができます。ただしこの時は、3-5-2ではなく、DFが五人の5-3-2でした(左図)。3-5-2も5-3-2も、両サイドMFならびに両サイドバックに求めている仕事内容はほとんど同じで、守備のときは、サイドバックとして機能し、攻撃のときはウイングのように機能するということが求められます。従って、ここのポジションの選手は、最終ラインから最前線へかなりの運動量を求められることになります。そのため、5-3-2のサイドバックの負担をちょっと軽くしたのが(攻撃力をアップした)、3-5-2システムです(右図)。サイドバックが攻撃に参加するというのが5-3-2、サイドのMFが攻撃をし、守備のときは、ボランチと協力してサイドバックとして機能するというのが、3-5-2。ただし、両者の差はそれほどはっきりとあるわけではありません。

攻撃における両者の違い

単純に考えるとMFの数が増えたため、4-4-2に比べ、3-5-2は攻撃に厚みがでます。4-4-2が、攻撃を6人(FW2、MF4)、守備を6人(MF4、DF4)でというのに対し、3-5-2が、攻撃を7人(FW2、MF5)、守備を8人(MF5、DF3)で、という形を取ります。実際には、リベロやサイドバックの攻撃参加や、FW、MF選手からのプレスディフェンスなど、必ずしもこの数に含まれないプレーも多くありますが。
二列目のMFが五人になったので、攻撃の厚みがでるわけですが、その一番の要因は4-4-2の時両サイドバックに期待していたサイド攻撃を、3-5-2では、両サイドMFが行う点にあるでしょう。上の図を見てもらえばわかりますが、左が4-4-2(ダブルボランチシステムになっていますが)、右が3-5-2のときのサイド攻撃のパターンです。前線の攻撃をしかける人が片方の(図では右)サイドにより、空いた逆サイド(図では左)のスペースに走り込むといのが、サイド攻撃のパターンです(もちろん、左右逆のパターンもあります)。その時のサイド攻撃の開始位置がDFからMFに変わったので、攻撃参加する頻度や速さが向上します。また、MFの数を増やしたことで、中盤を厚く、また中盤からプレスをかけやすいので、ゲームを支配しやすくなります。

守備における両者の違い

二つのシステムの守備面にしめる大きな違いは、DFの数が違うということでしょう。3-5-2の方が数が少ないので、選手達にはそれなりのプレーが要求されます。センターバックが二人、敵のツートップをマークするのは原則的に変わらないのですが、4バックは、基本的に横のラインを崩さず、マークの受け渡しをゾーンに従って行います(上図)。3バックでは、基本的に敵のツートップに対しては、4バックに比べてビッタリ張りつきます(下図)。両サイドの部分は、両サイドMFやボランチ、リベロに対処してもらいます。

3-5-2の欠点

今年、コンサドーレは4-4-2から3-5-2のシステムに変更しました。攻撃力がアップするといった良い点だけ、クローズアップされていますが、このシステムにも欠点が無いわけではありません。というよりは、必然的な結果で、守備の選手の一人を攻撃側の選手に換えたというわけですから、攻撃力が高まった半面、守備力は落ちたと考えていいでしょう。システムとして守備力が落ちる原因となるのは、DFの両サイドにスペースができやすいということです(下図)。

両サイドバックがいなくなった分、そこに大きなスペースがぽっかり開いてしまいました。3-5-2システムでは、ここをボランチやリベロ、あるいは、両サイドMFが守るわけですが、カウンターを食らった場合などでは、そのフォローなどが間に合わない場合などもでてきます。そういう時はピンチになるわけですが、試合では、たびたびそういうシーンがでてくることになると思います。ナビスコカップでも、第一節対ガンバ戦、エムボマに決められた1点目のヘッティングシュートなどは、みごとに右サイドから破られてしまいました。このような攻撃のときは、CBが最後にシュートをうつFWをきっちりマークできていれば、問題はないわけですが、エムボマほどの身体能力を発揮する選手には、90分すべてにおいてそれを行うのは難しいかも知れません。それでも、第二戦の川崎戦では、そこんとこの戦術が徹底していたようで、FWの2人には点は決められませんでした。最終戦対ガンバ戦でも、敵のFWのマークをきっちり行い、無失点にのおさえるなど、戦術の浸透を感じさせます。

とはいえ、攻撃力を上げた分、守備力が落ちるというチーム戦術変更の影響は、ナビスコカップでもでてしまっていました。得点も多いが失点も多い。得点は12点で5位/20チーム、失点は10点で11位/20チームでした。これに対し、コンサとは逆の戦術を取っていたのが、横浜F。得点はわずか5点ですが、逆に失点は20チーム一少ない3点。失点が多いのは3-5-2の宿命なので、どうすることもできません。選手や首脳陣もわかっていることだと思います。その点では、ナビスコカップで守備的なフォーメーションを取ることなく3-5-2を押しとうし、殴りあいの末、勝ちのこったのは大きかったです。もしも、このシステムで点が取れなかったら、そしてカウンター攻撃でいつもやられてしまっていたら、チームはばらばらになっていたでしょう。選手はこのシステムに疑いを持ち、みんなが個人技に走り、より泥沼にはまっていったでしょうから。ナビスコの結果は、選手達に非常に大きな自信を与えてくれるでしょう。今年のリーグ戦では、点の取り合いを見せてくれることでしょう。

>>>>>> 戦術解析4へ続く >>>>>>