[第14節]in日立柏:柏レイソル戦

文・写真/大熊洋一

互いにJ2降格の危機もなければ優勝争いに絡んでいるわけでもなし、あえていえばレイソルにとってはホームでの今季最終戦という要素はあるものの、それとてさほど高いモチベーションとなるとは思えない。おまけにいくら首都圏とはいっても11月半ば、ナイトゲームは観客にとってはかなりつらい。レイソルサポーターの関心も、試合そのものというより来季からホームスタジアムが柏の葉へ移転することのほうへ向いているように感じられた。

そんな試合であるにもかかわらず-といってしまっては乱暴かもしれないが-アウェー側ゴール裏は真っ赤に染まっていた。僕は日立台の徒歩圏内に住む知人に安くチケットを手配してもらった関係でバックスタンドのホーム寄りに席を取っていたのだが、ホーム側からみると、アウェー側のゴール裏はまさに壮観だった。柏のゴール裏はどこよりもフィールドに近く、かつ、フィールドとほぼ同じ高さで、しかも立見席だからもともと迫力ある光景にはなるのだが、そこが端から端まで赤く染められていることでその迫力がさらに増している。首都圏では今季最後のゲーム(いや、天皇杯があるのは分かってますって(^_^;))だからということもあろう。

そのゴール裏からは、試合開始までまだ30分もあるというのに、レイソルの機先を制するかのごとく「さっぽーろ!」「We Are Sapporo!」が大音量で響いてくる。メンバー発表がなされると、ゴール裏から選手全員の名前がコールされ、さらに「ディード!」「ネネ!」「おかーだたけし!」、これで終わりかと思ったら「さいとう!」「ウリセス!」のコールまで出てきた。最後のほうはアウェー側ゴール裏以外の観客には何のことかさっぱり分からなかったに違いない。

キックオフ直前には、アウェー側から「いてーん、はんたい!」のコールが起きた。レイソルサポーターからは「おおーっ!」というどよめきと、少し遅れてぱらぱらと拍手。もう選手が登場しようかという時間だったから、レイソルサポーターとしてもとまどったのだろう。一応はこれから戦う相手であることだということを考えると、コンササポはちょっとやりすぎだったかなという気がしない。もっとも、それで相手を惑わせるという考え方もあるわけで、そこまで考えてのコールだとしたらたいしたものだと思う。

さて、コンサドーレのメンバーはというと、相変わらずケガ人やら出場停止やらでベストにはほど遠い布陣である。GK佐藤、DFが右から今野(森は膝の手術を受け欠場)、古川、大森、中盤は右サイドに森川(田渕はサブ)、左に和波(アダウトは負傷中)、ビジュが出場停止の中盤の底には野々村と久々出場の名塚(右膝をぐるぐる巻きにしたテーピングが痛々しい!)、トップ下に伊藤(山瀬は負傷中)、FWに播戸とウィル。ただ、ベストメンバーをこれだけ欠いても、先発メンバーの顔ぶれがベストに比べてさほど見劣りするものではなくなったのは、一昨年、昨年からすれば大きな進歩ではあると思う。昨年までの在籍選手には失礼な言い方になるかもしれないが、たとえベストメンバーが数人欠けても、いくらなんでもこりゃ無理だよというほどではない。

19時4分、キックオフ。コンサドーレは序盤から森川と今野が高い位置をとり、平山をおさえにかかる。中盤の底では野々村がよくボールを拾い、どちらかといえばコンサドーレが押し気味に試合を進めた…と言いたいところだが、この何試合かと同様で、中盤からの押し上げがないので、せっかくボールを奪ってもシュートまで持っていくことができない。まず播戸に当ててそこから次の攻撃を作ろうとしているのは分かるのだが、攻撃を組み立てなければならないはずの伊藤がウィルと並んでしまったり播戸との距離が開いてしまったりでどうにもうまくいかない。

コンサドーレの最初(にして最大)のビッグチャンスは突然にやってきた。18分、左からのスローインを起点に、名塚が前にさばいてこれを左から中央へと流れつつウィルが受け、ウィルにマークが集中したところでペナルティエリア外側のゴール前中央の野々村、野々村はすぐ前にいたレイソルの選手3人の頭越しに浮き球を送り、きれいに抜けた播戸がGKと1対1。播戸はGKの頭上をねらって?つま先でシュートを放ったが、ボールはクロスバーを直撃してしまった。

23分には左サイドを上がってきた大森がゴール前へアーリークロス、屈んで低い姿勢をとった播戸が頭で前へ送ると、ウィルが右から中央へと走りこんできて、相手選手2人に挟まれながらもゴールラインと平行な態勢で右足を伸ばしてアウトサイドに当ててシュート(?)、GK南がジャンプしてクロスバーのわずかの内側でかろうじてはじき出した。その2分後には右サイドの森川から播戸、播戸が簡単にはたいて前へ送り、ウィルが渡辺毅を振りきって振り向きざまの左足シュート、わずかにポストの外側にそれる。

この時間帯にコンサドーレの攻勢が続いたのは、序盤、両サイドを崩されながらもゴール前で相手選手をフリーにせず(この点で今野の貢献大!)粘り強く守り続けたことで、レイソルの「両サイドが上がってクロスを入れるだけ」の攻撃が手詰まりになってきたことが大きかったと思う。さらに、野々村がよくボールを拾い、そしてスペースへとうまく散らし続けたことも大きい。こうなるとレイソル自慢の両サイドは闇雲に上がっていくばかりというわけにはいかなくなる(とはいうものの、この程度で攻め手がなくなってしまうのだから、今年のレイソルはやはりこの程度の順位のチームなのだと思う-北島の不調と洪の不在だけでこんなにも変わってしまうものなのか…???)

ところが、調子に乗って攻めすぎたわけでもなかろうが、30分、中盤に下がってきてボールを受けたウィルがボールを奪われ、レイソルが縦に長いボールを送ると北島も黄も「どフリー」。12分にも北島がフリーで長いボールを受けて抜けかけるという場面があり、そのときは古川がなんとか追いついて事無きを得たのだが(もっとも、古川はイエローカードをもらってしまったが)、今度はそうはいかなかった。左サイドでボールを受けた北島はゴールラインぎりぎりまで入るとファーサイドへふわっとしたやさしいクロスを送り、右からフリーの大野がシュート!が、すぐ目の前にいたコンササポの念力により、大野のシュートはポストに当たって弾き飛ばされた。

逆に35分、今度はコンサドーレが同じような展開からチャンスを得た。自陣ゴール前の混戦から森川がクリアしたボールを播戸が受けて、少しためてから右へ入ってきた伊藤へ出し、伊藤が突破しかけたところで後ろから体を入れた根引がイエローカード。左45度、ゴールまで25メートルとやや距離はあるが、ウィルにとっては難しい位置ではない。いつもと同じように、二歩ちょっと下がってウィルが左足を振りぬいた。が、珍しく、低い位置で壁に当たってしまった。距離が長かったから壁の下をねらったとも思えない。風邪でこの試合の出場が危ぶまれていたウィルだったが、そうした体調不良の影響もあったのか。

39分、レイソルの攻撃。左サイドの少し下がった位置から、大野が速くて低いボールを入れた。糸を引いているかのような美しい軌道のボールはGK佐藤のほんの少しだけ前へ入り、そこへどこからか走ってきた柳がジャンプせずに走りながら頭を出した。柳を追いかけてきた名塚は半歩遅れ、前へ出てきた佐藤が出した手の前には柳の頭があった。状況としてはアウェーの磐田戦で高原に決められた同点ゴールといっしょだが、あの高原のゴールは気持ちで奪ったゴールだった(と、みえた)のに対し、この柳のゴールは、ピンポイントで速いボールを入れた大野と、そこへトップスピードで入って行ってまったく浮かすことなくヘディングシュートを決めたを柳の高い技術が見事に結実したものだった。

それでも心配していなかったのは、コンサドーレがかなりの割合でボールを支配していたからだ。セカンドステージに入ってからというもの、確実に、中盤でパスがつながるようになってきている(もっとも、それがゆえにゴールが遠くなっていることも否めないのだが)。この失点は相手がうまかった、仕方がない。そのぐらい、柳想鉄の先制点は素晴らしいものだった。

ところが、後半に入ると、試合はほぼレイソルの一方的な展開になってしまった。レイソルの両サイドが高い位置をキープするのでコンサドーレの両サイドは最終ラインに吸収されてしまい、それに引きずられるような形で野々村と名塚のラインもかなり低くなってしまい、さらには伊藤も下がってしまい、コンサドーレの2トップは孤立状態。とくに伊藤は、前半もそうだったのが、動きに変化がなく、味方ボールに絡めるでもなければ相手のマークを引き連れるわけでもなく、居場所がないような状態になっていた。こういうことになっているのは、もちろん、コンサだけが悪いわけではなく、レイソルもその辺はうまくおさえているからで、最終ラインでは渡辺毅が積極的に前へ出て、中盤では明神があちらへこちらへとうまく動いてスペースを消していた。18分にはウィルが渡辺毅のタックルを受けて担架で退場。その直後、右サイドをきれいにワンツーで崩されて平山がフリーでシュート、クロスバー直撃。

いよいよもってどうにもならなくなってきたコンサドーレは、ウィル(担架のまま戻れず)と野々村を下げ、代わりに黄川田と大黒を入れた。フォーメーションは、おなじみの3-5-2から4-4-2にシフト。それも、大宮アルディージャのような、3ラインを並べる形である(最後列に大森、古川、今野、森川が一直線、中盤で伊藤、和波、名塚、大黒が一直線、前線に播戸と黄川田)。いつだったか記憶が定かでないのだが、この布陣は何試合か前にも試合途中で見ており、来季へ向けての新しい戦術のテストも兼ねているのかもしれない(と、このときは思っていたのだが、数日後、岡田監督の退任が発表された)。

この後のコンサドーレの見せ場は、大黒が何度か見せたドリブル突破。深川のような力強い突破ではなく、左右に軽く体を振りながら鋭い切れ味で前へと切りこんでいく。あるいは、ワンタッチでボールをはたいての小気味いいパス・アンド・ゴー。こういう選手がケガでこれまで使えなかったとは、本当にもったいなかったなぁと思う。万全の状態で山瀬とポジション争いができればもっと活躍できたのかもしれないのに、まったくもってサッカー選手というのは難しい。

44分、大森がコンササポに向かって低く押さえたいいロングシュートを放ったがGK正面。ロスタイム、佐藤が飛び出して無人となったゴールに向かって北島がボールを転がすも、なんと枠をはずしてしまうという、何とも締まりのないプレーで試合終了。ゴール裏に向かって播戸が深く頭を下げたこと、両チームのサポーターからエールの交換があったことが印象的な日立柏サッカー場であった。

それにしても…点が取れない…。


アウェー側ゴール裏は真っ赤! ホームのレイソルは煙で歓迎(?)
さすが寒いところから来たチーム、コンサドーレはグランドコートなし ウィルは後半途中で負傷退場
久々出場の名塚も途中交代、右膝のテーピングが痛々しい 前節に続き完封負けのコンサ、力なくサポーターに頭を下げる