[第9節]in札幌厚別:鹿島アントラーズ戦

“厚別開幕戦”

ぬけるような青空、そして、待ちに待った厚別。リーグ戦が開幕して2ヶ月、ようやくコンサイレブンが厚別に帰ってきた。長距離の移動、練習場問題、そんな北国のハンディを克服しての戦いぶりは素直に褒めてあげたい。スタジアムはこの日を待ちこがれていたサポーターの思いが充満し、心地よい緊張感と高揚感に包まれていた。スタンドは赤黒に染まり、SAPPOROの人文字がイレブンを迎える。単なるリーグ戦の1試合と片づけるのが憚られる雰囲気は、昨年7月29日のレッズ戦を思い出させるものがあった。室蘭や函館、そして遠く高知にコンサを支える熱い思いがあることは素晴らしいことだが、やはりコンサドーレ札幌の「ホーム」はここ厚別なのだ。

【ホーム側ゴール裏に登場したSAPPOROの人文字】

1-1の後半、それもロスタイムに得たPK。サッカーの1点はとてつもなく重い。このPKの重要さを思ったら、さすがのウィルも少々ビビッたのではないか。ボールをセットする彼をスタジアムは固唾を呑んで見つめた。ネットが揺れた瞬間スタジアムは歓喜の大歓声に包まれ、厚別開幕の激闘は最高のフィナーレを迎えた。とにかくこの日のウィルは最高だった。「ウィル、今日という日はおまえのためにある。死んでもいいから絶対決めろ!」スタンドでそう思った。「ゴールが決まったら代償に死んでもらう」と悪魔がささやいても、絶対決めなくてはいけないPKだった。我々はPKにいい思い出がない。かつてペレイラ、バルデスが失敗し、昨季はエメルソンも失敗している。こんなにも息が詰まり、手に汗したPKはちょっと記憶がない。「ウィル、おまえは本当に大したヤツだ!青のユニよりずっと赤黒が似合うぞ!!」
コンサスタメン

  • GK 佐藤
  • DF 森、名塚、大森
  • MF 田渕、野々村、ビジュ、山瀬、アウミール
  • FW 深川、ウィル
  • (ベンチ GK藤ヶ谷 DF森川 MF瀬戸、和波 FW黄川田)

アントラーズスタメン

  • GK 曽ヶ端
  • DF 金古、根本、秋田、内田
  • MF ビスマルク、小笠原、中田、熊谷
  • FW 鈴木、平瀬
  • (ベンチ GK加藤 DF池内 MF本田、青木 FW長谷川)

ゲームはお互い攻め合う非常に見応えのあるものとなった。バーに救われたというツキもあったが、勝因は攻める気持ちを忘れずに最後まで自分たちのサッカーを貫いたことだ。サッカーは野球やバスケットと違ってオールスターを揃えたところで必ず勝てるとは限らない。たとえスター軍団でもチームとしての意志というか意図が感じられなければ、見ていてもつまらないし勝利も遠い。そして点を取り合う競技なのだから、どうやってゴールを奪うかという「攻撃の意図」が見えなければ、いくら失点が少なくてもつまらないのだ。確かにコンサドーレの守備は堅いが、別にゴール前をガチガチに固めている訳ではなく、ちゃんとゴールを奪おうという意図が感じられる「守備」である。「攻撃的な守備」とでもいえばいいのだろうか。この日はそのことが実によくできていた。コンサドーレは連敗で見失いかけていた自分たちのサッカーを取り戻したのだ。

一方のアントラーズは故障や出場停止で主力を大量に欠いた。昨季2ndステージ最終節でレイソルと壮絶なドローゲームを演じ、その後チャンピオンシップでマリノス、天皇杯でエスパルスをしたたかに蹴散らしたあの雄姿は記憶に新しい。しかしそんな王者の姿はこの日厚別にはなかった。ビスマルクは明らかに運動量が落ちているし、やはり相馬の穴が埋まっていない。自慢の両サイドバックを欠き、さらに柳沢、高桑、ファビアーノがいないアントラーズは、もはやアントラーズではなかった。しかしさすがに昇格チームに負けるわけにはいかなかったのだろう、王者の意地は感じさせてくれた。かつて洋平や大森がレギュラー争いに敗れ、鈴木隆行をレンタルに出していたチームである。層の厚さは我々の想像を超えている。互いの意地と意地が激しくぶつかる好ゲームとなったのだった。

どちらが勝ってもおかしくなかったが、一言でいえば「サイドを使えなかったアントラーズ」ということに尽きるだろうか。アントラーズは自分たちのリズムでサッカーができていなかった。後半、カウンターの仕掛け合いみたいなシーンが続いたが、普通のアントラーズなら一本調子のカウンター合戦などにつき合ってくれない。耐える時間帯、攻める時間帯、一気に試合を決めにいく時間帯、そんなゲームコントロールがうまい試合巧者だった。ビスマルク、中田、小笠原らが中盤を支配しながら虎視眈々とチャンスを狙っていたものだ。そして柳沢が前線でポイントを作り、また相馬や名良橋がサイドを切り裂き、はたまた鈴木が飛びだしていくのだ。攻撃のパターンは多彩で、司令塔ビスマルクはさぞかしサッカーが面白かっただろう。とりわけ相馬、名良橋の不在は非常に痛かったと見えた。

5月3日、エスパルスはコンサドーレのサッカーを研究し、「速攻をさせない」という意図をもって戦っていたように見えた。好調のウィル、播戸にはさすがに手を焼いていたが、とにかくボールをとられても攻撃を遅らせられれば何とかなる、と言わんばかりに戸田や伊東がいい仕事をしていた。しかし、アントラーズはコンサについてどれだけスカウティングしたのだろう?と思わせた。チームが苦しいときに監督がイタリアなんぞに行っていては、さすがにスカウティングどころではなかったのかもしれない。深川、ビジュ、アウミール、野々村の豊富な運動量と早いプレスに戸惑い、最後までウィルを捕まえ切れていなかった。ウィルが封じられたらさすがにコンサも厳しかったはずだが、秋田も一人奮闘の末最後に白旗を揚げたのだった。

FW陣は両チームともにエースの一角を欠き、いつもとは違う2トップとなった。アントラーズは鈴木が楔となっていたが、ファールはもらうものの十分機能していなかったようだし、その楔に平瀬はなかなか絡めず、二人のコンビは今ひとつのように見えた。前半30分頃か、平瀬が左を突破し鈴木が決定的なシュートを放ったが、2人がうまく絡んだのはその場面くらいだったろうか。やはり、チャンピオンシップでの印象が強烈なのか、鈴木は裏をとって強引に突破してくる方がはるかに怖い。あまり裏をとろうという試みが見られなかったのはどうしたことか。そして、前線で攻撃のポイントを作る動きとなるとやはり柳沢がうまいなぁ、とあらためて思わされた。前節エスパルス戦でもビスマルクがうまく柳沢を使っていたが、柳沢の出場停止もコンサにとっては非常に幸運だった。

ウィルと深川の2トップは、特にコンビプレーが冴えていたわけではないが、お互いが自分の役割をしっかりこなし、結果としてアントラーズDFを混乱させていた。ウィルがあそこまで自由に動けたのは、時に中盤に下がりながら前線で動き回った深川のおかげである。ウィルは相変わらず力強いボールキープを見せ、アントラーズの両サイドがパワー不足だったこともあり、コンサドーレはよくサイドを使えていた。田渕の上がりも良かったし、特に山瀬はサイドでもあれだけやれるのかと、本当に感心した。大したものだ。今後の彼の成長は非常に楽しみである。

サッカーファンとしては、相馬、名良橋を見られなかったのはちょっと残念という気もする。特に相馬は個人的に大好きな選手だ。中に絞ってのミドルシュートやロベカルばりの矢のようなクロスなど、とても魅力に溢れている。(ほめ過ぎか?)昨季1stステージ、フロンターレ戦での弾丸ミドルはゲームの流れをあっさり変えたし、チャンピオンシップでの勝因は、第2戦で彼が木島を完璧に封じたことだった。相手チームの有名選手が見られなくて残念だったなんて、それこそ勝ったから言えることだが、相馬には早く復帰してもらいたいと思う。

手負いのアントラーズとはいえ、王者相手に勝ち点3は上出来である。イレブン全員がきっちり仕事をして、結果もついてきて、ホーム「厚別」を堪能できたのだからもう何も言うことはない。しかし、満足したら進歩はないので敢えて気になった点を挙げると、もっとゲームをコントロールできたら最高だったと思う。確かにアントラーズも自分たちのペースを見失っていたが、ではコンサドーレがゲームを支配していたかというと、決してそうではない。気持ちの差で勝てたが、やられてもおかしくはなかった。やはりゲームの流れを読み、ゲームを支配するようなチーム全体の意識とそれができる中盤がほしい。今の戦術では例えば野々村にそこまで求めるのは酷だし、ボールキープに優れたウィルが前線にいることもあり、中盤でボールが収まり落ち着く場面がないのだ。落ち着かないまま大声援に押されつい前がかりになり、帰陣が遅れ冷や冷やさせる場面も目についた。強いアントラーズのお株を奪うようなしたたかなゲーム運びをコンサドーレが見せてくれるには、まだまだ時間がかかるかもしれない。

半年ぶりの厚別はやはり素敵だった。勝ったということもあるが、なんていうか、とにかく素敵だった。厚別競技場は照明設備もなく、キャパからいってもJ1チームのホームスタジアムとしては正直言ってお寒い施設だ。しかし、我々にとっては自慢の「ホーム」なのである。将来、コンサドーレの歴史は「厚別」を抜きには語れないだろう。97年、フロンターレ戦で信じられないような逆転勝利を収め、後藤義一は「ここ(厚別)にはなにかあるのかもしれない」というコメントを残したが、本当になにかあるのではないかという思いをサポだけでなく選手にも抱かせたものだ。この日もビスマルクの決定的なシュートがバーにはじかれ、ぎりぎりのところで90分で勝てたのは、やはり「厚別」が救ってくれたという気がする。ゲーム後、胸のエンブレムに何度もキスをしながらバックスタンドの前まで来てくれたウィルの表情はとても印象的だった。昨年6月10日、ここ厚別で怒り狂っていた青いユニのウィルとはとても同一人物と思えない素敵な笑顔だ。彼も厚別がすっかり気に入ったに違いない。

最近CS放送が普及し海外のサッカーを見る機会が格段に増えたが、それで友人とのサッカー談義で話題になったのは「ホームとアウェイ」ということだ。「ホームだとこんなにいいゲームをするのになぜアウェイで勝てないのでしょう?」とスカパーのアナウンサーがよく不思議がっているが、確かにそれは全く不思議なことだった。強豪、弱小問わずホームでは明らかに運動量が増えるように見えるし、ラツィオやユヴェントスでさえアウェイでは引き分けでもいいや、という風に見えることがある。イタリアの事情に詳しい友人によると、要するにホームでは良いプレーをすればヒーローだが、逆に下手なミスをしたり負けたりしようものなら、ボロクソに叩かれまともに街を歩けないことになったりするらしい。「大声援が励みになる」ということもあるが、「ホームのサポーターが恐ろしいから必死でがんばる」と考えたほうが分かりやすいそうだ。そうするとここ厚別は世界でも希有な『心優しきホーム』ということになるのかもしれないが、長くつらい遠征を戦ってきたコンサイレブンにそのような本場流のプレッシャーをぶつける気にはちょっとなれない。

今季はコンサドーレの昇格とともに札幌ドームが話題だが、ドームも厚別のように愛されるだろうか。ドームでのゲームは楽しみである反面、やはり「屋根の下でサッカーやっていいのだろうか」、という思いは消えない。雨や風が時に勝利の女神となり、また時に悪魔のように残酷な結果をもたらすことは、理不尽かもしれないが、でもそれがサッカーなのだという気がする。やはりボールは空の下でけった方がいい。あのイチローも「ドームや人工芝は好きじゃない」と言って、屋根がなく天然芝が美しい神戸のホームスタジアムをこよなく愛していたという。道具やフィールドに対するそのようなこだわりは、きっとすべてのスポーツに存在するものだ。そして、イチローはそんな愛しいホームスタジアムが、なかなか満員にならないことが悲しかったことだろう。その点コンサイレブンはとても幸せである。

さて、次節の相手は首位を走るサックスブルー、ジュビロである。速いパス回し、変幻自在のポジションチェンジ、豊富な運動量、意外に泥臭くてしつこい守備・・・・・、確かに強い。しかし決して消極的になることなく、ベストのコンササッカーを見せてほしい。真に強い相手に正面からぶつかって得るものはきっと大きい。そして、勝ち点を得るチャンスも十分あると思う。


コンサドーレが厚別に帰ってきた!練習前に挨拶する選手達 選手入場!メインスタンドも赤と黒に染まった
アウェー側もこの通り! ロスタイム、ウィルPKで勝ち越しの瞬間!!拳を突き上げるコンササポーターたち
勝利に沸くスタンドと選手たち、試合後の挨拶

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