[第6節]in万博:ガンバ大阪戦

文・写真/大熊洋一

秋の陽射しが降りそそぐ万博公園競技場には、のどかな空気が漂っていた。ガラガラとはいわないまでも空間の多いスタンドは緊張感のかけらもなく、大音量で流れるDJが間抜け感をより一層助長していた。等々力あたりで行なわれるJ2の試合、みたいな雰囲気。ときおり強い風が、ホーム側からアウェー側に向かって吹き抜ける。ホーム側のゴール裏芝生(!)席には、ガンバサポーターが2グループに分かれて陣取っている。両方合わせてもコンサドーレのゴール裏よりも少ない人数なんだから一緒にやればいいのにと思うが、ま、あちらにはあちらの事情がおありなんでしょう。

15時、大音量の”We will rock you”に合わせて選手が入場。その大音量の音楽を消してしまうのではないかと思うほどの迫力で「♪さ~っぽろ~、おれたちのさっぽろ~、ともにたたかおう…」。これを聞くと、ああ、アウェーなんだなぁと思う。そして、毎度のことながら、どこから集まってくるのか大人数かつ大声量のアウェーゴール裏に感心する。

[ガンバ大阪]GK1都築、DF33柳本、35宮本、3木場、17新井場、MF27橋本、5山口、19遠藤、16二川、FW24松波、18吉原(sub:1岡中、2朝比奈、7片野坂、15嵜本、9ニーノ・ブーレ)
[コンサドーレ札幌]GK1佐藤、DF3森、14古川、6大森、MF15森下、8ビジュ、26今野、28アダウト、18山瀬、FW11播戸、9ウィル(sub:21藤ヶ谷、4森川、2田渕、23曽田、31堀井)

前半はコンサドーレが向かい風。開始1分40秒、コンサドーレは播戸のドリブルから相手ゴール前へ迫る。播戸が強引に放ったシュートがガンバDFの固まりに当たってはじかれると、早くも右タッチライン際を上がってきた森がゴール前へアーリークロス、播戸がガンバDF陣と競ってヘッドで合わせるもボールはゴールを大きくはずれる。8分には山瀬の右CKを受けたウィルがうまく相手をかわして逆サイドへ流し、左からアダウトがシュートはわずかにゴール右にはずれる。

対するガンバは、16分、遠藤の「とりあえず打ってみました」みたいなミドルが最初のシュート(→ゴール左にはずれる)。その2分後、新井場が30メートルのシュート(→GK正面)。さらにその直後にはスローインからボールを受けた遠藤がやはり30メートル近い距離からのシュート。この遠藤のシュートがゴール左にはずれた直後、佐藤洋平がものすごい勢いで味方を怒鳴りつけた。ガンバにしてみれば強い追い風があるから遠めからシュートを打ってきているのだろうが、コンサドーレが全体に下がり気味でガンバの中盤に余裕を持たせてしまっていたのも確かだった。コンサドーレのDFラインは、ガンバの前線で張り続ける松波に引きずられて、高い位置をとれずに苦しんでいた。

もっとも、ガンバの攻撃に怖さはまったくといっていいほどなかった。ガンバは、それなりにボールは支配しているのだが、パスのボールにスピードがなく、まるでウォーミングアップでボールをまわしているようだった。松波があけたスペースへ誰かが入ってこなければならなかったのだろうが、2列目から後ろに工夫がなく、コンサも余裕を持って対応できた。ピンチらしいピンチといえば、25分になんでもないロングボールを古川がクリアミスして松波に奪われた場面ぐらいで、ここも古川がややオブストラクション気味に松波の前に体を入れることで松波と佐藤が1対1となる局面を作らせなかった(ここでたとえば吉原が松波の後ろに入ってきていればかなりヤバかったはずである)。

コンサドーレは、ウィル+播戸+山瀬にせいぜいビジュが絡む程度で、あとはほぼ全員が引いたまま。マイボールになっても後ろでまわすことが多く、点が入りそうな雰囲気はない。ガンバもパスの精度が悪くゴール前へ入ってこない。風は若干あるものの、気持ちのいい秋の陽射しが…と、睡眠不足の身にはかなりつらい展開になってきていた。

39分、ドリブルで突っかけていったアダウトが山口にボールを奪われかけた。アダウトは山口へスライディングタックル。イエローカード。

41分、新井場のドリブル突破をビジュが止めるもファウルをとられる。ペナルティエリアの少し外側から遠藤のFKはカベに当たり、続くCKではこぼれ球から橋本のシュートがクロスバーを越えた。佐藤のゴールキックから、今度はコンサドーレのチャンス。ガンバDFが頭で落としたボールに対し播戸がうまく体を入れてドリブルで前進しかけたところでガンバのファウル。ペナルティエリアの5メートル外側正面やや右と、まさに絶好の位置。キッカーは当然ウィル。ウィルは、カベの中に入ろうとしていたビジュと森のそばへ歩み寄って何やら声をかけ、さらにはビジュと森の体を引っ張って自分の望む位置に2人を立たせた。いつものようにほとんど助走をとらないまま左足から放たれたキックは見事にゴールポストのほんのわずか内側へ…しかし、都築が見事なジャンプでナイスセーブ。コンサを応援していたはずなのに思わず「ナイスキーパー!」と言ってしまったほど、都築のセービングが素晴らしかった(ということは、もちろん、ウィルのキックも素晴らしかったということなんですが)。

ロスタイムに入り、コンサドーレは自陣深くでボールを持った森下からビジュ、ビジュから左前方へロングボールが出るとこれを今野が追いかけてゴールライン際で粘りCKを得た。が、ここで前半終了の笛。モットラム主審は厳しいなぁと思ったのだが、この試合でのモットラムの厳しいレフリングはこんなものでは終わらなかった…。

後半4分、新井場のクロスに松波がヘッドで突っ込むも佐藤が飛び出してかろうじてはじく。8分、吉原がドリブルでコンサDF陣を切り裂きゴールへ迫るも後ろから追いかけたビジュがしっかりとボールの前へと足を滑らせ吉原を止める。が、その後のルーズボールをまたもガンバに奪われ、タッチライン際でフリーだった橋本の背後から大森がスライディングを仕掛けてイエローカード(試合後、大森は「今野が警告を受けたと思った」とコメントしているようだが、わりと近い場所で見ていた僕はこのイエローが今野に出たものとはまったく思わなかった<というのも、大森のタックルがあまりにも危険なものに見えたからである)。さらにその直後にはペナルティエリア内で二川に2人、3人と抜かれてシュートまで持って行かれてしまうが、ここもビジュが体を入れて難を逃れた。

防戦一方のコンサドーレは、12分、佐藤からのボールがガンバDFラインの裏に出て、木場と宮本の間をすり抜けたウィルと都築が1対1。都築が思いきりよく飛び出し、ウィルとぶつかる寸前でバウンドしたボールをカンフーキック(?)でクリア。14分には左サイドのアダウトの突破からゴール前でボールをまわすも、後方から出てきた今野が無理な態勢で当たりそこねのシュートを打っておしまい(これはもったいなかった)。逆に17分には相手2人に囲まれかけたアダウトが無造作に蹴ってしまったボール(<アダウトには何か意図があったのかもしれないが…)がガンバに渡ってしまいカウンターで大ピンチ。ペナルティエリアに入ってきた吉原はなんとか古川(だと思う)が体を入れて抑えたが、戻されたボールに対して佐藤が飛び出しゴールマウスは無人状態。しかし、橋本のシュートはクロスバーを大きく越えた。コンサドーレの綱渡りは続く。

18分、交替選手として堀井が出てきた。直前のプレーのみならず、全体に不安定な感じのアダウトと替えるのかと思ったら、替わったのは森下だった。山瀬が右サイドへまわり、播戸が山瀬のいたトップ下、堀井が播戸のポジションに入る。さあ、コンサ、攻撃モードだ…と思ったら、なんとなんと、20分、アダウトが2回目の警告で退場だ。しかも、二川のFK(ゴール前でもなんてもない)の前に立ちはだかって警告を受ける(いわゆる距離不足=C6と表示されるプレーですね)というアホらしさ。ここまで粘り強く守り続けているコンサだが、果たして1人少ない状態で最後まで持つのか…???

10人となったコンサドーレは、アダウトのポジションに播戸を配した。対するガンバは27分に橋本を下げてニーノ・ブーレを入れて3トップの布陣。ここで照明灯に明かりが点った(バックスタンド上段ではまだまだ西日がきつかったのだが)。

ガンバの波状攻撃を浴び続けるコンサ。守っているというよりも、とにかく相手がボールを蹴ってくるところに誰かがいるといった状態。思えば、98年Jリーグでの戦いもこんな感じだったよなぁ…そのうちあのゴールマウスにディドが出てくるんじゃないか…そんな幻想を抱いていたら、34分、今度は大森が2回目の警告で退場。後ろから松波を引っ張ったプレーは確かに警告でも仕方のないもの。あーあ、これでコンサドーレは9人だ。これで勝てというほうが無理だ。

36分、播戸→田渕。コンサドーレのフォーメーションは、前線にウィルを残し、中盤には左から堀井、ビジュ、山瀬、田渕、最終ラインは左から今野、古川、森の3-4-1。38分、ニーノ・ブーレがフリーでヘディングシュート、佐藤が飛びつく。42分、松波が振り向きざまのきれいなシュート、わずかにクロスバーの上。ロスタイム3分が表示された後の47分、ニーノ・ブーレが完全に裏へ抜け出し、GK佐藤も足先でかわして万事休す…が、ひょいっと横へ蹴ったボールはサイドネット。前後半終了、試合の決着はコンサにとって4試合連続の延長戦へと委ねられた、が、勝てるわけはない、引き分けられればオッケー、負けて当然、なんてことを僕は考えていた。

しかし、コンサドーレは誰もあきらめていなかった。ガンバは余裕を持ちすぎたのか、パスの受け手が動かずボールがタッチラインを割るなどのつまらないミスを連発し、ボールは支配しても決定的なシュートまではなかなか持ちこめずにいた。

延長前半3分、ゴール前でウィルのFKがはじかれる。その直後、後方からのロングボールに堀井が猛然と走りこみ、相手ゴール前でガンバDFともつれてCKを得る。6分、コンサドーレが自陣から苦し紛れに前線へ蹴ったようなボールは、とにかく前に蹴っておけば大丈夫、みたいなボールで、ガンバも誰もフォローに向かわなかった。ところが、これを追いかけた選手が一人だけいた-堀井だった。あわてて飛び出してきた都築が堀井ともつれる。都築がボールをキャッチした場所はペナルティエリアぎりぎりのところで、堀井があと半歩早ければPKだったかもしれないというぐらいに緊迫した場面だった。このときはじめて、僕は、「この試合は負けちゃいけないんだ、負けるわけにはいかないだろ!」と思った。山形からやってきてまだ1か月にもならない堀井が、コンサドーレの魂を体現していた。

8分には、自陣で堀井が粘って相手からボールを奪うと前方のウィルへと預け、ウィルがドリブルで突進。ウィルは左サイドを上がってきた山瀬へと預け、山瀬がこれまた上がってきた今野へと下げると、今野がゴール前へアーリークロス、ウィルが背中を引っ張られながら(ユニホームの「9」と書かれた部分が膨張するのが見えた)倒れこんでのボレーシュート。惜しくもGK正面となってしまったが、2人多いはずのガンバにまったく引けをとらない迫力ある攻撃だった。

日が落ちて手が冷たくなってきた。でも試合は終わらない。延長後半、キックオフのボールをウィルがガンバゴールへ向けて思いきり蹴りこんだ。ボールはクロスバーのはるか上を通過。まるで、少し前までのラグビーでよくみられた、陣地を稼ぐためのロングキックのようなキック。2人多いガンバは波状攻撃を続けるが、古川が、今野が、田渕が、ペナルティエリア内で身を挺してガンバのシュートに当たっていく。容赦なく入ってくるクロスボールを佐藤が、森が、はじき返しつづける。3分過ぎ、山瀬が足をつらせてペナルティエリアの中で座り込んでしまう。それでも、勝利へ向けて、コンサドーレは走り続ける。5分、自陣深くでボールを拾った今野がそのままドリブルで駆け上がり、ウィルに出すとガンバDFはウィルへと体を寄せるのが精一杯で、コンサCKを得る。

5分、山瀬を下げて森川を入れる。7分、ガンバが左からアーリークロス、コンサドーレは左に右にと振られて絶体絶命となるも佐藤がボールに食らいつく。9分、柳本のクロスボールをニーノ・ブーレと佐藤が競ったこぼれ球に吉原が飛びこんでゴールへと押しこむ。「ごーーーーる!」の場内アナウンスが流れるが、モットラム主審の動きがヘンだ。場内アナウンスは「Vゴールです!ただいまの得点は…」とやっていたが、そのときにはすでにスタジアムの空気は「あ、何かあったんだな」に変わっていた。モットラムがニーノ・ブーレを指してイエローカードを提示している。ニーノ・ブーレが神の手を使ったらしい。そういえば札幌ドームで大森のハンドをとったのもモットラムだった(どうでもいいことだが)。

ガンバは柳本と吉原を下げて片野坂と嵜本(こいつ誰や?)を入れる。相変わらずボールの支配はガンバ。でも、もうここまで来たら負けるわけにはいかない。残り1分、自陣ゴール前で今野のカットから、ビジュ-今野-堀井とつなぎ、堀井が左サイドを駆け上がる。堀井のドリブルにさほどのスピードがあるようには見えなかったが、ガンバの選手たちは、疲労からか、堀井を止めることができない。堀井がスルーパスを出し、受けたウィルが左サイドからペナルティエリア内へと切れ込む。ウィルのセンタリングに、なぜかゴール前にいた森川が飛び込むが届かない。

暗くなって寒ささえ感じるほど気温が下がり、静まり返るスタジアム。その中で「こーんさどーれ!」のコールだけは鳴りやまない。ニーノ・ブーレのヘディングシュートがゴールをはずれる。タイムアップ。大森が退場してからの40分間、コンサドーレは9人で守りきった。いや、守りきっただけではない。得点のチャンスも何度か作った。互角といっては言い過ぎだが、2人も少ないとはとても思えなかった。

退場者が出るまでは、ホント、眠くなるような試合だったのだが(笑)、終わってみれば、とても素晴らしい、心に訴えかけてくる試合だった。来てよかった。もちろん、退場者を出したことは問題なのだが、名塚、野々村が不在のアウェーであることを考えれば、退場者がいようがいまいが、勝ち点1は十分に上出来だ。そして、2人退場になりながらもセカンドステージ初めての無失点で試合を終えられたことは、選手たちに誇りと自信を与えたに違いない。今後を考えれば、勝ち点1以上の価値がある引き分けであった。


地元の森下選手を応援する横断幕 この人の応援ももちろんあります
風に舞う紙ふぶき@ホーム側ゴール裏 前半終了間際、ウィル選手のFKが枠をとらえるも都築選手の好セーブで得点ならず
後半20分、アダウト選手が退場 後半34分には大森選手も退場
2人少なくなっても勝利を信じ、延長戦へ向けて応援を続けるゴール裏 延長開始を前に円陣を組むコンサ
延長に入ってからは足がつる選手が続出 それでも120分間を戦い抜いたコンサ。40分間を9人で守りきった。