[第5節]in三ツ沢:横浜マリノス戦 

『横浜の渡辺さんの観戦記』

まずは「懺悔」から

 最初に正直に告白いたします。筆者は以前マリノスを応援していました。なにせ横浜在住者。数えるほどでしたが日本リーグの日産時代も当時まだ「石段」だった三ッ沢球技場のスタンドに足を運んだこともあります。加えてサッカーに目覚めたきっかけが若き日のラモン・ディアスのプレーを見たから(82年スペインW杯・もちろんTVでですが)であったため、Jリーグ発足と同時に彼が加わったマリノスを応援することは筆者にとってはごく自然なことでした。かつてはホーム側ゴール裏の14番ゲート付近に陣取り、ディアスはもちろん、木村和司、水沼貴史、エバートンらのプレーに拍手を贈っていた人間です。
 しかしその後、なぜかマリノスは三ッ沢で不甲斐ない試合で敗戦を重ねることが多くなり、次第にスタンドの雰囲気も変わってきました。日産時代から熱心に声援を送っていた人たちも、新しい「熱狂型」サポに押されて姿を消し、結果としての勝利しか求めない新参者はたびたびチームの顔に泥を塗るような行為をしでかしたりもしました(敵選手に10円玉を投げつけたり)。筆者もそんな状況に眉をひそめていた一人です。加えてその時分は「Jリーグバブル」の只中でチケットの入手も困難だった時期であり、おまけにディアスや木村らも次々と引退(贔屓の山田もなかなか出場せず・泣)。徐々にマリノスから心が離れていきます。なんたって止めは当時のソラリ監督によるカウンター・サッカーへの変貌でした。ピッチを広く使って攻め上がる華麗なサッカーを放棄し、よりによって……確かに優勝はしたけどさぁ……ブツブツ……(以下延々と続きますが自粛します)。
 要するに筆者はマリノスを愛し、そして見限った醜い裏切り者です。恐らく今回の観戦記の中にはそういった愛憎の部分も多々見受けられると思いますが、どうかご容赦ください。

スター軍団、躍る

 マリノスはフランスW杯を目前にした5人の日本代表選手を擁するチーム。長年「アジアの壁」として君臨するDF井原、ハードマークとセットプレーでの得点力が売りのDF小村、若きストライカー城(実は道産子)、日本の守護神GK川口。加えて新たに地元出身のMF中村俊輔も代表入りし、左SB路木も代表経験あり。前述の井原が韓日戦で負傷した影響でこの日は欠場しましたが、その穴を埋めるDF松田も「マイアミの奇跡」を起こした五輪代表…と、人気・実力とも申し分のないスター達がひしめいています。外国人選手もFWサリナスは3度のW杯に出場したスペインの英雄。中盤を構成するMFバルディビエソもボリビア代表の経験があり、おまけに新加入のゴイコエチェアもスペイン代表の主力として活躍した選手です(この日はサブ登録)。いくら昨年のナビスコカップで破っているとはいえ、その時は4人がW杯1次予選で不在。当時新戦力の中村やサリナス、バルディビエソも噛み合わず、長い合宿でチームを仕上げてきたコンサにもつけ込む隙はあったわけです。前回は試合終了後に味方サポーターから大ブーイングを食らったマリノスイレブン。「雪辱」にめらめらと闘志を燃やしていることでしょう。
 一方のわれらがコンサもようやっと室蘭でガンバ大阪を下してJリーグ初勝利を挙げ、意気上がっています。プロ集団にとって何より必要なのは「いい内容」ではなく、あくまで「勝利」であることを実感したことでしょう。ただし右足内転筋痛が悪化したウーゴがスタメン落ち。GKディド、DF古川、渡辺、木山は変化なし。左ウイングバックに前節から黄川田が起用され、右は田渕。ボランチはバウテルで、その前に村主、後藤で2トップは吉原とバルデス…ということは、左が黄川田に替わった以外は柏戦と同じでした。
 試合開始から雪辱に燃える「スター軍団」は右に左にコンサを揺さぶります。DFラインは小村と松田が進出してくる選手に合わせてマークを受け渡しているようです。対するコンサドーレはいきなり吉原が右サイドをスピード豊かに突破。見せ場を作りますが小村が体を張って阻止。以後はマリノスが鋭い出足でチェックを仕掛けてきます。11分にはコンサ右サイドで田渕、古川がともに激しい「寄せ」にあいボールを奪われ、一気にクロスをゴール前まで放り込まれます。飛び出したディドがはじいて一瞬ひやり。バウテルのクリアに救われましたが、これでコンサドーレは「ビビッた」のか、この直後にもサリナスに中央を強引にこじ開けられるなどピンチを迎えます。その原因はボールをなかなか相手陣内まで運べないこと。徐々にボールを奪われる位置がセンターラインを割ってコンサ陣内まで下がってきています。これだけ相手にとって高い位置でボールを支配されると劣勢も当然です。
 とうとう先制されたのは33分。左サイドを破られて鈴木→サリナス→バルディビエソと細かく渡ったボールがファーサイドの中村の頭に合い、ゴール前に落ちるボールにGKディドとFWサリナス、さらにはサリナスに付いていたDF古川が突進。3人が交錯する中、ボールはころころと抜けてコンサゴールに。ビデオで確認すると古川の右手に当たってボールの方向が変わりインゴールとなったのですが、わずかにサリナスの足にも触っていたようなので記録はサリナスの得点。崩されてはいたものの、ディドも古川もボールに触れることはできていただけに、互いのプレーを阻止するような両者の交錯の末の失点は悔いが残ります。
 この失点が札幌イレブンの足を重くします。好き勝手にボールを回すマリノスに対して、既にボールのないところではトボトボと歩いている選手もいるほど。中盤でぐずぐず回していては相手の網にかかってしまうため、縦パスをポンと出してもそこに走り込む選手はなく、単なる川口への「贈り物」に終わってしまいます。そこで思い出したように村主や後藤がボールを追いかけ、前線のバルデスや吉原へつなごうとしても、後方からサポートに上がってくる味方がいないため、たちまち青いユニフォームに囲まれてボールはむなしく相手の足元に…。
 敵ながらこの日のマリノス中盤のプレーは非常に素晴らしいものがありました。バルディビエソのため息の出るような正確なサイドチェンジ、若手ながら精力的に動いて札幌の攻撃の芽を摘む深沢、前線への参加は少ないものの攻守のつなぎ役として視野の広さを発揮した上野(筆者はこの日のマン・オブ・ザ・マッチに推します)。それぞれがDF、FWと有機的に連携を取り、支配率で圧倒します。分けてもキラキラするような才能の輝きをいかんなく見せつけてくれたのが中村俊輔。桐光学園時代からこの三ッ沢で彼のプレーを見ていた筆者も、その成長ぶりには目を見張るばかり。左足のスペシャリストという印象を覆すような見事な右足でのセンタリングを見せたり(城がオーバーヘッド・枠には飛ばず)、意欲的に右サイドまで進出したり、縦横無尽の活躍。38分には札幌DFが不意に与えた左サイドのスペースで軽やかに舞い、鋭い左足のひざ下の振り抜きからループシュートを決めてみせました。名手ディドも脱帽のゴールで0-2。(やばい…誉めすぎか?)
 その後もバルディビエソとサリナスの2人で決定機を作られたり、アップアップのコンサ。少しは抵抗してくれ…の願いもむなしく前半終了。なんとか0-0で折り返せば勝機ありと睨んでいただけに2点が重いのは確か。その上、数人の選手が失点以後あからさまにファイティング・スピリッツが引いていったようなプレーを見せはじめていたのが心に引っかかりました。

ゴールとは、近くにありて遠きもの…

 後半。青いスタンド側のゴールに向かってご挨拶がわりに深沢がシュート。バーを叩く衝撃でコンサも少しは目覚めたか、はたまたマリノスもペースダウンがあったのか、時折りコンサドーレの時間帯も訪れます。後半7分に吉原と後藤に代えて深川とウーゴをピッチに送り局面打開を図り始めた矢先に、村主の突破からCKを得ます。ここからのバルデスのシュートはDF小村の体にヒット。左サイドからのバウテルのFKも川口の正面。このあたりは今日初めてと言っていいほど「コンサ得点の匂い」が漂った時間でした。ここをモノにできなかった甘さが後に響きます。マリノスの勇敢にラインを上げるオフサイドトラップを破れず、「誰か走り込んでくれ!」と前へ抜けるボールに反応する者もなし。逆に22分にはコンサゴール前で奪われたボールを路木→城→バルディ→また城とつながれて、ノーマークの深沢が右サイドを上がりマイナス気味のセンタリング。ぬかりなくゴール前へ進出していた城の右足ボレーがDF渡辺に当たってコースが変わりインゴールへ。あらら、0-3ですよ。
 こうなるとマリノス・アスカルゴルタ監督は三浦、平間ら控えに出場機会を与える余裕を見せ、続いてゴイコエチェアも登場。選手交代の影響か多少バランスがズレた隙を突きコンサも攻勢に転じます。特に後半30分以降は「やられっぱなしでたまるか!」と、選手1人1人の顔にも書いてありました。…けどさ、それができるならなぜ最初からやらなかったのよ…。
 とはいえ、やはりウーゴがいるといないとでは違います。キープ力と展開力でコンサドーレのアタックにアクセントをつけます。とりわけ前めに位置する左SB路木の背後でチャンスを作るべく、田渕の進出の機会が増えてきたようです。しかし続けざまの決定機は余裕と正確性のないフィニッシュやDFの捨て身の守りで、ことごとく潰されます。
 最たるものが40分過ぎ。右サイドのFKからゴール前での混戦でバルデスが川口に進路をふさがれて(だと思います)PKの笛。ほとんど審判にいただいたようなPKを、よりによってバルデスが外してしまいました。まるでサンダーバード2号の離陸を見るような軌跡を描いてゴールの上を通過したボールは、スタンドに飛び込み、最前列で見ていた筆者の足元に転がりました(悔し紛れに地面に叩きつけてやろうかと思いましたがやっていませんのでご安心を)。
 最後は業を煮やしたウーゴが足の痛みも省みず自らプレースキックを蹴るなど「なんとか1点を!」と、気力を振り絞っての攻撃。こちらも必死に応援を送ったものの、木山との接触で頭を打って外で治療を受けていたはずの城にあっさりと4点目を決められてハイそれまでよ。J参戦以来、1点づつでも得点を挙げていたコンサですが、ここに初の完封負けを記録してしまいました。

言いたかないけど…

 結論。マリノスの出来が異常に良すぎました(爆笑)。ただし0-4のスコアが表すように全く歯の立たない相手なのかというと「NO!」でしょう。全体のキープ率は57%-43%。さらにシュート数は15-9と圧倒されていましたけれど、後半のシュート数はマリノス7に対してコンサ8と上回っていたのです。1対1では競り負けていない局面もありましたし、殊にウーゴが入ってからは相手の裏を突く狙いにマリノスが引いてゆくシーンも見られました。それなのに得点に結びつかなかったのは、技術面・戦術面ではマイ・ボールになった際の意思統一の遅さが指摘できるかもしれません。マリノスはピッチの中のどの場所でボールを支配しようとも、そのボールを相手ゴールまで運ぶべく、複数の選手(極端に言えば全員)が同時にサーッと動き出します。キープする選手、サポートに回る選手、囮となる選手…等などです。一方のコンサドーレはまるでブツ切り。前方やサイドで頑張っている選手がいても、カウンターを警戒しているのか何なのか「見物」の選手がウヨウヨいました。
 が、そんな点より気になったのが精神面の脆弱さ。絶好機につまらないミスをしたり、あわててトラップが大きくなったり、やぶれかぶれに相手選手に当たるようなシュートを打ってみたり。もっと落ち着いて状況をよく把握し、個々が自分達のサッカーに自信を持ってやればいいのに…と思ったのは筆者だけではないでしょう。常に相手を圧倒してきたJFL時代と違って、なかなか思い通りに事が進んでくれないのはわかります。それにしてもこれだけ元Jリーガーが揃っていながら…と首を傾げざるをえません。
 印象的だったのがPKの判定が下ったシーン。TVには映っていませんでしたが、ウーゴが一目散に駆け寄り、転がっているボールを拾ってペナルティスポットに持っていきました。バルデスは判定をめぐってマリノス選手が激昂している様を「早く蹴らせてくれ」というように横目で見ていました。間近のコンササポも珍しく、抗議を続けるマリノス選手に向けて興奮気味に野次を飛ばします。この影響があったのかもしれませんが、皆、気持ちが過分に昂ぶっていました。いくら後半40分を過ぎて残り時間が少ないとはいえ、プロの選手なら自分を見失うほどの興奮を冷ませるくらいのセルフ・コントロールは必要でしょう。そうこうしているうちに笛が鳴り、とっとと助走を始めるバルデス。「をいをい、もうひと呼吸必要じゃないの?」と思った途端、「あーーーー!」っとなってしまったわけです。
 少しはコンサドーレの選手のこともほめたいですし、実際にいい面もいくつかあったのですけれど、今回は保留! まだ公式戦3試合観戦で1回も勝ち試合を見ていない筆者ですので、どんな形でも1回勝ったらメいっぱいほめてあげます。
 最後に。この日の横浜の最高気温は25度を超えました。いわゆる「夏日」というやつです。一昨日に室蘭で練習したときの気温は2度だったそうです。激戦の後遺症で怪我を抱えた選手も多数います。この日も試合中に相手選手との接触プレーで吉原、バウテル、村主、黄川田といった選手が次々とピッチに転がりました。途中出場のウーゴに至ってはプレースキックもできないくらいでした(最後は意地で蹴っていましたけれどね)。
 …だからどうだと言うわけではありません。選手達はみな「プロ」なのですから…。

書き漏らし棚ざらえ

 完敗でした。別に書くことはありません(笑)。
 と、言ってはナンですから平川さんのことでも書きましょうか(失礼な奴>自分)。コンサ1年目に赤黒の2番のユニフォームに袖を通していた平川弘氏。FWとして日本代表にも名を連ね、DFにコンバートされてからもマリノスの中心選手として活躍しました。以後フリューゲルスを経て札幌で現役を終え、現在はUHB「週刊コンサドーレ」などで「コンサドーレのご意見番」としておなじみの人です。この日は両チームの地元TV局が試合を中継。解説者として青春の思い出多き三ッ沢に帰ってきました。そこで試合前、コンササポ席からは大きな平川コール。双眼鏡で見ていましたら、気が付いてくれたようで、ちゃんとこちらに手を振ってくれました。(…しかしマリノス側が何もしなかったのはどういうわけでしょう? 平川さんの解説を知らなかったのかな?)
 ところで関東でのコンサドーレの応援は、柳沼さんが札幌に戻られて以来これといったリーダーが不在の状態でした。その日の状況によってホームからいらした方や、柄にも合わずこの筆者などがコールの声出しなどをやらせていただいてはいましたが、そろそろ関東でも1試合応援のリードのできる若手が育ってきてほしいということで、この試合は札幌出身で現在は横浜の大学に通う石森勇一くんにフロントマンになってもらいました。不慣れな点も多々あり、決してスムーズな進行とはいかなかったかもしれません。それでも特に後半は周囲も彼を盛り立てて、前半よりは全体的に大きな声が出ていたと感じています。今後は「自分も応援のリードを取ってみたい!」あるいは「こういった応援のアイディアを持っている」という方がいらっしゃいましたら、基本的に私たちは歓迎いたします。マナーを守って温かく、大切なチームを今後もサポートし続けていきたいと考えています。
 この日の入場者は惜しくも1万人には届きませんでしたが、自由席はホーム側・アウェイ側とも埋まりました。実際はホーム側に入りきらなかったマリノス寄りの方々もかなりアウェイ側に流れてきてはいたのですけれどね。しかし、遠隔地にホームを置くチームの試合であるにも関わらず、三ッ沢のアウェイ側ゴール裏が人で埋まった…という事実は事実。これを私たちは誇らしく思い、ますます気合を入れて頑張りましょう!

…とは言っても次の関東での試合は7月。はぁ…それまで何して過ごそう?

(以上記事提供:横浜の渡辺さん)