コンサ1年目の、東芝社員選手のこと。
早々に、東芝社員選手の出向が解かれることは決まっていて、
加藤、木島、河合、後藤静、新明、茶木といった、
レギュラークラスの選手のゆくすえはなにも分からなかった。
浅沼は、早々に、東芝社員としての人生の選択をして、引退を表明していた。
天皇杯直前、当初の発表通り、東芝社員選手の全員解雇が発表された。
当然サポーターは騒然となり、フロントへの批判が渦巻き、署名活動が行われた。
天皇杯2回戦、室蘭での試合、会場は、一部のサポーターの抗議活動に備えて、
いつも以上の物々しい警備が敷かれた。
幸いにして、直接的な行動は行われなかったが、ゴール裏には
「忘れない フロントの愚 忘れない 東芝社員選手」
なる横断幕が張り出された。
そして試合後、声を絞り出すようにインタビューに答えていた木島選手に向かって、
メインスタンドから声が投げかけられた。
「サッカーやめんなよ」
この言葉に、木島が泣いた。木島だけではない、東芝社員選手の心に染みたことだろう。
次の年、東芝社員選手が4名、大分に移籍した。
浅沼は、みんなの予想を裏切って、札幌の選手として、プロの荒波に飛びこんできてくれた。
そして、コンサドーレ札幌がJリーグ昇格を決めたあの試合、
大分の東芝元社員選手は、みんな厚別のピッチに立った。かつての所属チーム相手に、死に物狂いで戦った。
自分達を守ろうとしてくれたサポーターに、そのプレイで返礼をしてくれた。
そして今、プロを引退した彼らは、「サッカー未開の地」北海道のに移住し、
アマチュア選手として、サッカーの素晴らしさを私達にもたらしてくれている。
署名は、サポーターの声は、結局は彼らの身を救ってはくれなかった。
しかし、確実に彼らの人生を変える大きな力になった。
今年、札幌を去る選手達の将来に、幸多からんことを。
追 記
現在、「ある選手」の去就に関して、非情にも追い出しにかかっているかのような意見が
主流を占めている現状がある。非常に悲しく感じる。
彼がコンサを必要としているかどうか、当事者ならぬ私には分かるはずもない。
彼は、自分の意思で自分の将来を決めようとしている。
しかるに、なにをもって彼を北海道の地より放逐しようとするのか。
なにゆえ、彼の今までの功績を称えないのか?
彼が、自分の意思で決めるべき進路を、誰にそれを批判する資格があろう。
彼にも、コンサの選手・スタッフすべてにも、幸多からんことを。