[第7節]in函館:鹿島アントラーズ戦

文・写真/大熊洋一

「輝け 輝け 今日を使い果たせ いま大きな花火をあげよう」-今年3度目となる川村結花の歌声を聴きながら、僕は呆然としていた。ここまで今季のリーグ戦7試合すべてをスタンドで観戦してきたが、このときほど、絶望的な気持ちになったことはなかった。開幕戦の広島戦は、最初だから仕方ないかと思えた。3節の磐田戦は、ロブソンのつまらない退場があったから、評価を保留することができた。5節の柏戦は、大野敏隆のおそろしく精度の高いプレースキックと前線で激しく動き回る柳相鉄と黄善洪のコンビが素晴らしかったから、4失点でもあきらめがついた。前節の室蘭での京都戦は、負けはしたものの終盤にいったんは同点に追いついたことの興奮が余韻として残っていて、よくやったと素直に拍手を送ることができた。

でも、この函館での試合に関しては、ただただ、絶望しか残らなかった。いや、曽田-新居で奪ったゴールという、クラブの歴史に残る大きな収穫はあった。でも、それだけだ。勝てないからといってフォーメーションを変え、しかしその変えたフォーメーションは実戦ではまだ誰も見たことのないもので、勝てないからといって若手をどんどん入れ、しかし、その若手は結果を出したけれどチームは試合に敗れ、ピッチ上の選手たちは闘志が空回りしてバラバラなプレーを繰り返し、ひとたび失点するや自信なさげにずるずると下がってしまってマイボールになっても誰も上がっていかない…あるいは、僕も、試合前にゴール裏に掲げられた3枚の横断幕-「責任を取るのは誰?」「言い訳聞き飽きた.内容ある結果出せ」「哲二にもうホームは無い!」-に、気持ちが引きずられていたのかもしれない。

とにかく、メンバーやフォーメーションをいじりながら結果が出ないというのは、最悪だ。それでさらに結果が出ないからといってメンバーを変えることを続ければ、選手は何を信じればよいのか分からなくなり、監督は信頼を失い、チームがバラバラになっていく。そんな例は、Jリーグでもこれまでにたくさんあった。

さて、その試合の内容である。

この日の函館は暑いほどの日差しが照りつけ、白の目立つバックスタンドはまるで真夏のよう。スタジアムの外では、まだ4月半ばだというのに、驚いたことに桜が満開になっていた。緑の芝生が青空に映え、とても気持ちのいい光景が広がっていた。

(コンサドーレ札幌)GK佐藤、DF今野、古川、曽田、MF田渕、ビジュ、森下、大森、平間、FW山瀬、小倉(R:藤ヶ谷、吉川、吉瀬、小島、新居)
(鹿島アントラーズ)GK曽ヶ端、DF名良橋、秋田、ファビアーノ、アウグスト、MF熊谷、中田、小笠原、本山、FW鈴木、平瀬(R:高崎、内田、本田、青木、長谷川)

コンサドーレは山瀬がFW登録になっているが、実際には小倉の1トップで、山瀬と平間が2列目に控える布陣。中盤を厚くして云々、というのは、理屈は分かるが、いち観客からすれば、前節の終盤にうまく機能した曽田をなぜFWで使わないのかがよく分からないところ。曽田をターゲットに前線へ蹴りこむというのは確かに美しくはないが、もはやきれいなサッカーとかなんとか言っていられる状況ではない。

14時5分、アントラーズのキックオフで試合開始。早速、曽田の前へボールが運ばれる。ちょっと不安になったが、曽田はすばやく体を入れて難なく処理した。この後も、曽田はいちはやくスペースのカバーにまわるなど、開幕戦の吉川などとは比べものにならないぐらい安定した守備をみせてくれた。

ところが、攻撃のほうは相変わらずで、前線の小倉へ長いボールを入れてそこから攻めようという意図は分かるのだが、小倉のヘディングがことごとく秋田に競り負けてしまい、ボールがまったくつながらない。しかし、アントラーズにもさほどの迫力はなく、マイボールになってもサイドチェンジと縦に長いボールを放り込むだけで、これならコンサドーレの最終ラインがはじき返すだけで十分に対応できる。

前半14分、そんななかで、アウグストが初めて左サイドを上がってきた。自分たちの間でボールをまわすことで試合を落ち着かせた後、その膠着状態を打ち破るかのようなドリブル。たまらず山瀬が体を当てに行きファウルをとられる。小笠原のFKはコンサドーレがクリアするも、2度のアントラーズボールのスローインを経て、鈴木がポストになったボールを小笠原が受けると、小笠原の動きにコンサドーレの選手は簡単に振り切られてしまい、小笠原と洋平が1対1。小笠原のねらいすましたシュートは、しかし、洋平が倒れながらセーブ、跳ね返ったボールを逆サイドでフリーになっていた本山がボレー、しかし、ゴールラインの前に立っていた曽田がこれをクリア。アントラーズボールのコーナーキック。

この大ピンチをしのいだことでほっとしたわけでもなかろうが、コンサドーレがゴール前を固めようとしているうちに、アントラーズがすばやくショートコーナーを入れてきた。不意をつかれた格好のコンサドーレは、ボールを受けたアウグストに対してプレッシャーをかけることがまったくできず、アウグストがフリーで上げたアーリークロスを平瀬がきれいにヘディング、これは洋平が身を挺して防いだものの、つかみそこねたボールを中田に押し込まれアントラーズ先制、0-1。

このたった一度の失点で、コンサドーレは早くもどこかが切れてしまったかのようだった。直後のキックオフから、ビジュが左サイドの大森へパスを出すも大森は動けず、無人の空間を転々としたボールがそのままタッチラインを割ってしまう。そしてその直後、今度はビジュが、パスを受けようとしているアントラーズの選手にショルダータックルを食らわせるという柏戦の前半12分とまったく同じプレー(プレーとはいえないか、これは)をしてしまい、柏のときと同じようにイエローカード。18分、コンサドーレの中盤がアントラーズのプレッシャーの前にバックパスを2本続けたところで2本目を大きくクリアしようと古川の蹴ったボールが目の前にいた鈴木に当たってしまい、鈴木から右サイドの平瀬へ長いパスがきれいに通ると、平瀬はフェイント一つで曽田をかわして左足のシュート。シュートが当たり損ねで救われたが、平瀬の利き足が逆だったら、かなりヤバかったと思う。

コンサドーレの見せ場は、20分、中央の平間が左の大森に出し、大森のセンタリングが小倉の頭を経由して逆サイドの田渕、田渕が中に入れたボールを小倉がヘディングシュート、ぐらい。もっとも、ゴール前で厳しくマークされた小倉は、ヘディングシュートといってもタイミングを完全に失しており、ボールに触ったときはすっかり体が伸びきった状態だった。アントラーズの守備は両サイドバックが中に絞ってくるのでどちらかのサイドには大きなスペースができていることが多く、この場面のように大森や田渕がもっと積極的に上がってもよかったと思うのだが…

この後はアントラーズのほぼ一方的な展開。それでもコンサドーレが14分の失点だけで前半を終えられたのは、アントラーズの攻めが雑だったからで、コンサドーレが得点をあげられるようにはとても思えなかった。コンサドーレは、マイボールになって前線へ長いボールが送られても、誰もそこへ走っていこうとしない。スタンドから見ていると、失点が怖いから上がれないでいるようにとしか思えない。相手ボールに対しても、人数はいるのにパスを簡単につながれてしまう。もちろん、アントラーズは、攻めが雑とはいっても、各選手の技量には高いものがあるのだが、それにしても、コンサドーレの相手ボールに対する追い方が、あまりにも悪い。ボールを持った相手選手を2~3人で囲むところまではいいのだが、その後、誰が最初に寄せていくのかがはっきりせず、ただなんとなくわさわさと全員で距離を詰めながら様子をみているうちに簡単にはたかれてしまう、そんなことの繰り返し。37分には、FKから森下の蹴ったロビングが、誰も触れないままゴールラインを割ってしまう。僕はアウェー側に近いほうで見ていて、このときには洋平が目の前にいたのだが、洋平は、ものすごい形相で怒鳴っていた。そりゃそうだろう。

41分、ハーフウェー付近で、アントラーズの選手に詰められた田渕が苦しまぎれに出した森下への横パスを中田にカットされ、中田がそのままドリブルで上がる。ペナルティエリア手前で古川が中田を倒しファウル。小笠原のFKからアントラーズの波状攻撃が続き、コンサドーレはほぼ全員が戻って体を張った守備でなんとかこれをはね返す。44分、柱谷監督がピッチサイドに出て、メインスタンド側の大森に大きな手ぶりを交えながら「上がれ、上がれ」と指示し、大森が高いポジションをとるとその背後に生じた広大なスペースに本山が出てきてフリーになり、本山がクロスを入れるとゴール前では鈴木と平瀬がフリー。万事休すの場面だったが、曽田が戻って本山のクロスボールをクリアする。もう、サイアク。

こんな試合をしているから、ハーフタイムにコンサドールズが登場しても盛り上がりようがない。

後半開始前、コンサドーレの選手はなかなか姿を現さなかった。あまりにも出てこないので審判員が呼びに行きかけたほど、出てくるのが遅かった。そして、コンサドーレの選手が登場するなり、コンサドーレのキックオフで後半開始。開始30秒、小倉がヘッドで落としたボールを、小倉を追い越していた山瀬がトラップして小倉に戻し、小倉の強烈なミドルシュート。GK正面ではあったが、そうなのだ、とにかくシュートを打たなければ始まらないのだよ!!

しかし、これだけだった。相変わらず、小倉にボールを送っても誰も上がってこない。味方どうしの距離が開きすぎていて、パスがつながらない。11分、ディドがベンチを飛び出し、上がれ上がれと大きく手を動かす。

12分、左サイドからアウグストがフリーでするすると上がってくる。寄せていくコンサドーレの選手は誰もいない。アウグストがゴール前へ放り込む。小笠原に当たったボールが裏へ出て、平瀬がこれを押し込む。アントラーズ2点目。コンサドーレの選手たちはオフサイドを主張して激しく抗議するが、認められるはずもない。雰囲気は最悪である。

16分、平間に代えて小島。しかし、状況は変わらない。気がつけば、最終ラインが前半に比べてかなり下がってしまっている。これは、失点を恐れてということ以上に、アントラーズの前線からのプレスが厳しかったからだと思う。とにかくアントラーズの前の選手は的確に動く。コンサドーレは相手が自陣に入ってくるまでプレスをかけに行かないのに対し、アントラーズは、鈴木、平瀬、本山、小笠原の4人が、コンサドーレが最終ラインでボールを持っているときですらプレッシャーをかけてくる。だから、コンサドーレは中盤から最終ライン、そして最終ラインからGKへと、相手にボールを奪われないようにとボールを戻すだけで精一杯になってしまう。この試合を見ていていちばん感じた両チームの差は、ここだった。そうして考えてみると、播戸を失ったことの意味は、得点力ということ以上に、この前線からのチェイスということのほうが大きかったのかもしれない。いや、いまさらそんなことを言ってみても何の足しにもならないのは分かっているのだが、そんなことを言いたくなってしまうほど、コンサには語るところがなかった。

23分、田渕がファーサイドにアーリークロス、小島がヘッドで折り返して小倉がオーバーヘッドシュート。思わずスタンドがどよめいた場面で、やはり小倉は華のある選手だなとあらためて感じたが、これは、見方を変えれば、小倉が前を向かせてもらっていないことの証明だ。それだけアントラーズのディフェンスが厳しいのだ。

24分、森下が足を引きずりながらピッチの外へ出る。26分、その森下に代わって、大きな歓声に送られて新居がピッチに入る。キャプテンマークを託されたビジュは、なんと、試合が止まるまでの間、左手にキャプテンマークを握りしめたままプレーを続けた(いかにもビジュらしい場面だったが、これを笑う余裕すらなかった…)。

コンサドーレは、小倉を中央に置き、左に小島、右に新居の3トップ。そしてその背後に山瀬が控える…のだが、この4人だけでは点はとれない。アントラーズは前線に平瀬だけを残し、他の選手は全員守備のような状態-なのに、コンサドーレの、この4人以外が上がっていかない。僕の後ろから「1人しかいないのになんで6人も残ってるんだ!」という野次が飛んでいたが、実際、平瀬1人を3バック+田渕+大森+ビジュの6人が自陣で囲んでいた。いったいどうなっているのだ…

33分、ボールがタッチラインを割ってコンサベンチの前に転がってくると、柱谷監督が飛び出してきてボールを拾い上げ、「しっかりやれ!」とでも言わんばかりの勢いでタッチラインへ向かってボールを投げ返した。36分、その直前に熊谷と接触して倒れていた小倉が下がり、ルーキー吉瀬が入る(曽田が上がり、曽田と新居の道産子2トップになる)。新居の初出場だけでもう十分だよ、吉瀬なんか入れてどうするんだよ、ああ、もうダメだ、こんなことしてちゃ勝てない…

37分、自陣左から大森がゴール前へ長いボールを放り込んだ。これを曽田がヘッドで右へ落とすと、新居が秋田の前に体を入れ、左足のワンタッチで足元にボールを置き、GKを見ながら右足で軽く流し込んだ!1点返した!!それも新居だ!!!新居は、ゴールに入っていってボールを拾うとそれを胸に抱え、すぐさまセンターサークルへ走った。先週の室蘭での森下の同点ゴールを思い出させる新居のゴール!でも、先週とは違う。まだ1点のビハインドだ。

40分、吉瀬が平瀬を倒してしまい、アントラーズのPK(僕は平瀬の倒れ方がオーバーアクション気味だったように思えたのだが、遠い位置から見ていたのだから近いところにいたレフェリーの判断を信じるしかない-いや、皮肉でなく)。ルーキーの失敗をカバーしようと思うあまりか、コンサドーレの選手たちがレフェリーに詰めより、ビジュが2度目の警告を受けて退場。が、洋平の背後のサポーターが、平瀬が蹴ったボールの軌道を変えた(そんなはずはないか)。平瀬の蹴ったボールは右のポストに当たってはじかれた。まだツキはある。

ああ、それなのに…ロスタイムに突入した直後、交代で入ったばかりの長谷川に3点目を決められてしまった…アントラーズの左からのコーナーキックが右へ流れた後、名良橋が上げたセンタリングを長谷川がヘディング、いったんは洋平がはじいたがそれをまた長谷川が頭で押し込んだ、という得点だったが、名良橋がセンタリングを上げたとき、コンサドーレの選手は完全にボールウォッチャーと化していた。長谷川の最初のヘディングも、どうしてと思えるほどフリーだった。

ただでさえ内容が悪いのに2点のビハインドを背負ってしまっては、ロスタイムが4分あろうとも、追いつけるはずなどない。それでも、3点目を奪われてからはより一層、スタジアムにはコンサドーレコールが響き渡った。僕は、あの98年12月の室蘭でのJ1参入決定戦を思い出していた。あのときとは違って眩しい日差しと半袖でもいいぐらいの暑さだが、温かい声援というよりは悲痛な叫びのようなコンサドーレコールに、何か空しさのようなものを感じていた。

奇跡が起きることもなく、そのまま1-3で試合終了。ふたたび、ゴール裏から「責任を取るのは誰?」「哲二にもうホームは無い!」の横断幕が掲げられ、その前を肩を落としたコンサドーレの選手たちが通過していく。結果も内容もない試合、相変わらずチームとしての形が見えないどころか、新しいフォーメーションで臨んだ試合であるにもかかわらず得点がそれ以外の形から生まれたことで、より混迷を深めてしまったようにも思える。監督の意図がみえず、戦術なきサッカーが演じられているなか、曽田-新居で奪った1点は、選手の意地が生んだものだったのではないか。

それでも、だ。帰りの函館空港で柱谷監督を見かけた瞬間、なぜか監督のもとへ駆け寄り、「監督!がんばってください!」と、右手を差し出している自分がいた。力強く握り返した柱谷監督は、不敵な笑みを浮かべながら、一言、「巻き返しますから」とだけ言ってくれた。正直なところ、このままでいいかどうかは半信半疑どころか二信八疑ぐらいなのだが、ナビスコ、そして中断期間で、まずはなんとか自信を取り戻してほしい。いま、コンサドーレに必要なのは、選手、スタッフ、そしてサポーターが思いを一つにできる「よりどころ」だ。リーグ戦再開までの3ヶ月弱という時間は、コンサドーレ札幌というクラブの総力が問われる時間だ。


函館ゴール裏を埋めつくしたコンササポ 夏のような暑さ、ピッチの緑が気持ちいい
後半26分、新居選手がユース出身選手としては初めてのリーグ戦出場 後半36分にはこちらもルーキー・吉瀬選手が初出場
後半40分、平瀬選手のPKがはずれる 3連敗、最下位転落に肩を落とす選手たち